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この前アップした師父スカ過去編の続きです。未読の方は2つ下の「生へのまなざし1」からどうぞ。
僧たちの修行の妨げになるという意味でも、僧院の中で動物を飼うことは固く禁じられている。少年はそれを思い出し、とっさに言葉を継ぎ足した。
「あ、あの、おれが拾ったんじゃなくて、今日の修練の帰りにこいつがついてきちゃって、それで・・・・・・」
「なぜ、偽りを言う」
「え・・・・・・」
武僧はイシュヴァール人の証である紅い目で少年を見つめた。大人から見れば嘘をついているのは明らかなのに、少年は必死で取り繕おうとしている。師弟として出会って半年。師には弟子の考えていることが手に取るように分かる。真面目で心の優しいこの少年のことだ。空腹か何かで弱っていた猫をつい拾ってきてしまったのだろう。
「お前が拾ってきたのに、なぜそれを猫のせいにする。その猫を守りたいから、お前は自分の食べ物を与え、こんな所に隠していたのだろう。なのに、その猫が悪いことにしてどうする」
「ごめんなさい。こいつ、こんなにちっちゃいのに親とはぐれたみたいで、道のはじっこでうずくまってて、そのままじゃ死んじゃうと思ったから・・・・・・。でも、動物を飼うことは神さまの心に背くって習ったし、修行のじゃまになるからここで飼っちゃいけないし、それで、おれは・・・・・・」
言葉が先細りになり、少年は肩を落としてうつむいた。しかし、次に思い切ったように顔を上げ、紅玉のように紅くつぶらな目で師をまっすぐ見上げた。
「師父、動物を飼うことは、なんで神さまの心に背くんですか?こいつは、そのままだったら死んでたかもしれないんです。神さまは・・・・・・、それでもいいっていうんですか?」
「それはな、それが神が決めたこの大地の営みだからだ。この世の全てのものは、生まれ、死んでいく。それを我々人間の勝手な情や思い入れで変えてはならん。この猫はたまたまお前が拾ったからこうして生きているが、他にも、親とはぐれ死んでいく動物はたくさんいる。常に生と死が繰り返されるこの世界で、人間も動物も生きているのだ。その流れは、人間には止められぬ」
少年は黙って師の言葉を聞いていた。泣きだしそうになるのを懸命にこらえているのが、武僧にはよく分かった。
「だが、お前には生へのまなざしがある」
「生への・・・・・・まなざし?」
「そうだ。生きとし生けるものをいつくしむ心だ。生と死の流れは変えられぬが、だからといって、生と死に対して無感覚になってはならん。命あるものを大切にし、死を悼む心を持ち続けることだ。これは、人として、また、この地を守る武僧としても、大切なのだ。お前はこれから武僧として、様々な生と死を見ることになるだろう。だが、いかなるときも生へのまなざしを失ってはならんのだ」
不思議そうな顔で見上げる弟子の頭をなで、武僧は静かに言った。
「その優しさ、大切にするのだぞ」
去っていく師の背中に向かって、少年は慌てて聞いた。
「じゃあ、こいつは・・・・・・」
「口うるさい他の僧や師兄に見つかるなよ」
少年の顔が、ぱぁっと明るくなる。
「はいっ!!」
「明日も夜明けから修練だ。早く寝なさい」
「おやすみなさい、師父」
ほっと安堵の表情を浮かべる少年の足元で、「アウレリアン」が幸せそうに「にゃー」と鳴いた。
―完―
◇あとがき◆
初めての真面目な師父スカ小説。長くなってしまいましたが、最後までお付き合い下さりありがとうございました!
武僧に入門したてのスカーさんと師父でほのぼのしたものを書いてみたいと思いまして・・・・・・。にゃんこ好きなスカーさんは絶対にゃんこを拾ってしまうと思う。それが本当はいけないことなんだけど・・・・・・、っていう流れを作りたくて、イシュヴァラ教の教義を捏造してしまいました(汗)。でも、イシュヴァラって地神だし、ハガレン自体が生と死について考えさせられる話なので、イシュヴァールにこういう考え方があるってのもありかなぁと(弁解)。で、師父は「動物を飼ってはいけない」っていう教えを否定するわけではないんだけど、それをきっかけにもっと本質的で大事なことを弟子に伝えるんですよ。うんうん、やっぱりいい師弟関係だよ、師父スカ。
で、ちょっと思ったんですが、若師父ってどんな顔?ヒゲあるの?髪あるの?(コラ)子スカは第一期にチラッと出てくるし、色んなサイトさんが描いてるから簡単に想像できます。さぞやかわいかっただろうと!!!!!!でも、なんか師父って若い頃が想像できない。まぁ、成長した弟子があんなにかっこいいし、今の師父も十分かっこいいので、それはそれはかっこよかったことでしょう。
こんばんは。この前書いた長旅での再会は長編にしたいので、その前に師父スカ小説過去編を書いてみました。昔の小話のあとがきで書いた、にゃんこをこっそり拾った子スカの話です。イシュヴァラ教の教義とか、子スカとか、色々と捏造してます;長くなるのでとりあえず途中まで。
生へのまなざし
砂漠に夕闇が迫る。悠久の時を経て変わることなく繰り返されてきたイシュヴァールの夕暮れだ。
そんな中、イシュヴァラ教の僧院の中庭で小さな影が動く。武僧に入門したばかりの少年。年は七、八歳といったところだろうか、僧衣を身にまとってはいるものの、まだまだあどけなさが残る。
「ここでじっとしてるんだぞ、分かったな?」
真剣な顔で、少年はなにやら言い聞かせている。その目線の先には、小さな黒猫の姿があった。少年の言葉を解している気配はまるでなく、ひたすら目の前の食べ物を食べている。
「おい、ちゃんと聞けよ。見つかったら、おまえもおれも大変なことになるんだからな」
少年の心配をよそに猫は食事を終え、いかにも満足そうに伸びをした。少年はあきれたようにため息をつく。
「ったく、いいよな、おまえはのんきで。おまえが今食べたのって、おれの夕飯だったんだぞ。明日の朝の修練で死んだらおまえのせいだからな。ま、半分食べたからいいけど。あ、そういえば、まだおまえは名前がなかったな。ちゃんときめてあるんだ。『アウレリアン』。今日、教典の講釈で習ったんだ。昔の言葉で『金』っていう意味なんだって。な?かっこいいだろ?」
「何をしている」
少年の背後から、低く、荘厳な声が響いた。少年は飛び上がりそうになるのをかろうじてこらえ、顔をこわばらせたまま振り返った。
「し、師父・・・・・・」
僧院の回廊に立っていたのは、若い武僧だった。穏やかな、しかし厳しい表情で少年を見つめている。
「な、なんでも・・・・・・、ありません」
その言葉とは逆に、少年の声はひどく怯えていて今にも泣きだしそうだ。武僧は無言のまま、少年の足元に視線を落とした。
「猫・・・・・・か。拾ったのか」
「・・・・・・」
「拾ったのかと聞いている」
「・・・・・・はい」
「『我らが神が創りたもうた世界に手を加えることなかれ』。これは、知っているな」
「はい」
イシュヴァラ教の唯一神、イシュヴァラはこの世の創造主だ。地神であるイシュヴァラが創った世界の中で人も動物もありのままに生きるというのがこの宗教の根本的な考え方であるため、動物を飼うことは神の意思に背く行為とされている。例外的に飼うことが認められているのは、馬や牛などのごく限られた種類の家畜だけである。一般の家庭では野犬などに餌をやっているところもあるようだが、何といってもここは僧院。イシュヴァールの中でも、最も厳格に戒律を守るべきところなのだ。
再会
~もしも、師父がイズミさんキャラだったら~
ここは、イーストシティの外れにあるスラム。謎の二人組に襲われて傷を負った己れは、イシュヴァールの同胞に助けられ、介抱を受けていた。傷が癒え、起き上がることができるようになったので、早速修練を再開した。
―― しかし、あの者達は何者だ?人体破壊がきかんとは・・・・・・。いや、きいていたのだが、傷が瞬く間に回復した。人間ではないのか?しかし、そんなことは・・・・・・。それよりも、イーストシティで遭遇した鋼の錬金術師や焰の錬金術師。自ら裁きを受けに現れたというのに、全て仕留め損なってしまった。我が使命を果たすには、まだまだ長い道のりだ。
修練をしながら、つい、余計なことを考えてしまう。いかん、今は修練に集中せねば。
――「イシュヴァールの武僧は常に修練を怠ってはならぬ」
武僧として修行を積んでいたころ、幾度となく言い聞かされた言葉だ。イシュヴァールの武僧の使命は、常に修練を積み、外敵から民を守ること。己れには、守りたいものがあった。守らねばならないものがあった。しかし、己れは・・・・・・。そういえば、師父はご無事なのだろうか。己れが入門した当初から、厳しくも温かく己れを見守り、教え導いて下さったかけがえのない我が師だ。
「あーっ、またかよ!!」
唐突に響きわたる少年の大声に、己れの思考は妨げられた。気を失っていた己れを救い、今まで介抱してくれたこの少年は、母親がイシュヴァールの民なのだという。もちろん、この少年には心から感謝しているが、無理するなと口うるさいのだ。
「まだ傷口もふさがってないのに無茶すんなよ!」
「イシュヴァールの武僧は常に修練を・・・・・・」
突然声をかけられた己れは、頭の中にあった言葉を無意識のうちに口にしていた。少し、不覚である。が、己れが言い終わらぬうちに、手拭いが己れの顔面めがけて飛んできた。
「いいから顔ふけ!」
こうなると、口答えはできない。どうも、子供には弱い。
「客だよ」
そう言って少年が小屋の入り口を指さすと、そこには懐かしい姿があった。穏やかだが、威厳をたたえた顔。そこに立っていたのは、我が師父、その人であった。
「師父・・・・・・!!」
己れは感動のあまり声を上げた。あの惨劇から6年。どこにおられるのか、生きておられるのかすら分からなかった師父が、いま、こうして己れの目の前に立っておられるとは。
「ご無事で何よ・・・・・・おぅっ?!!」
己れが声をかけようとすると、いきなり拳が己れの顔面めがけて飛んできた。
「こンの馬鹿弟子がっっ!!!」
穏やかな顔とは裏腹に、師父は実はすさまじく恐ろしい。いや、普段は本当に穏やかな方なのだが、その怒りに触れたら最後、もう誰にも止めることはできない。さらに、体術の腕はイシュヴァールの高僧の中でも抜きん出ており、己れ自身、修練の時に今日こそは神の下へ送られるかと思ったことなど、一度や二度ではない。
「もももも、申し訳ございませぬっっ!!!!」
なぜ叱られているのかも分からぬまま、己れはただただ反射的にその場にひれ伏した。急に姿勢を変えたので治りかけの傷が痛むが、今はそれどころではない。
「何を叱られているのかも分からずに謝るな!この愚か者が!!さっさと顔を上げんか!」
恐ろしい。ただひたすら恐ろしく、とても顔を上げることなどできない。そのとき、師父の怒号は、荘厳な、低く静かな声に変わった。
「お前の噂は聞いたぞ。国家錬金術師を殺して回っているそうだな」
察しはついていた。やはり、そのことか。
「・・・・・・」
「どうした。何か言え」
恐怖心と動揺を必死で抑えつつ、己れはやっとの思いで口を開いた。
「はい。・・・・・・奴ら、いえ、国家錬金術師は、我らの同胞を虐殺し、村を焼き滅ぼしました。私は、神の地を守るという武僧としての使命を果たすことができませんでした。それゆえ、せめて、国家錬金術師に裁きを下そう、と・・・・・・」
荘厳な師父の顔が、だんだんと怒りに震えていくのが分かる。己れの言葉は先細りになった。
「こンの、大馬鹿者がぁっ!!!儂(わし)の教えた体術で何をやっておる!!儂は、そんなことのためにお前を弟子にしたのではないぞ!!」
再び師父の拳が飛んでくるかと思ったその時、小屋の入り口が開き、下品な身なりのアメストリス人が二人現れた。
「本当にいたぜ!顔にバッテン傷のイシュヴァール人だ」
連続殺人犯として国軍に追われている己れを狙った賞金稼ぎだ。師父やこのスラムの同胞達を、こんなことに巻き込むわけにはいかない。これは、己れの問題なのだ。
「己れがここにいては迷惑になるようだ」
己れが裁きを下すのは国家錬金術師のみだが、我が使命を邪魔するものは容赦なく排除する。賞金稼ぎを人体破壊で倒し、己れはスラムを立ち去ろうとした。同胞も、師父も、全てを後にして・・・・・・。
「行くのか」
師父の声が己れの背中に突き刺さる。穏やかで、静かであるがゆえに、その声は胸をえぐるようだった。だが、国家錬金術師への復讐を誓った以上、どんなことも全て己れひとりで引き受けねばならない。命を落とすことになろうと、神を捨てることになろうと、師に背くことになろうと。
「もう、後戻りはでき・・・・・・ぬぉっ?!」
「師の言葉を聞かぬか!!!」
その言葉と共に、師父の鉄拳が己れのみぞおちを直撃した。
「何が後戻りはできぬだ!!独りよがりの愚か者めが!その上、亡き兄が託した錬金術を使って殺生をするとは!今のような小者など、体術で十分だったであろう?!さてはお前、錬金術に頼って体術の修練を怠っておったな?!!しかも、八つ当たりに近い復讐なんぞに手を染めるとは!!お前のような不届き者は断じて許さん!!!」
師父の鉄拳をまともに受けたとあっては、さすがの己れも微動だにできない。
「復讐などという愚かな考えが二度と頭に浮かばぬよう、儂が鍛え直してくれるわ!!!!さぁ、来い!!」
意識がもうろうとしている己れをひょいと担ぎ上げ、師父はスラムを後にした。
こうして、国家錬金術師に対する己れの復讐はあっけなく終わりを告げ、師父のもとでの地獄のような修練の日々が幕を開けたのだった。
-完-
◇あとがき◆
小ネタにしようと思っていたのに、書き始めたらスカーさんの脳内についての妄想が広がってしまって、なんとこんな長さに・・・・・・。最後まで読んでくださってありがとうございました!
スカーさんの復讐劇が強制終了でめでたくハッピーエンドv「師父がイズミさんキャラだったら、力ずくででもスカーさんを止めてただろうな」というところから生まれた妄想です。あと、普段は何事にも動じないスカーさんが、カーティス師弟みたいに、師父の前ではガタブルなってたらかわいいなぁと。最後の師父のセリフはほぼ言いがかりなんですが、師父はそれを承知の上で力ずくで愛弟子を止めにかかっています。愛ですね。
あ、でも、これだとスカーさんが兄者の逆転練成陣にたどり着かない(汗)。ま、いっか。きっと修練しながら色々考えて、いつか気付きますよね(←無責任)。
あと、原作7巻でスカーさんが修練してるシーン見ていつも思うんですが、スカーさんが使ってるダンベル痛そう!!だって、持つとこが鉄筋なんですよ?!スカーさんのことだから重いに決まってるし!!スラムの坊やが「しょーがねーなー!せめて痛くないようにしろよ」とか言いながら、持つとこに手拭いかなんか巻いてあげてたらいいのに。そして、スカーさんが無言で照れてたらいいのに。(どうでもいい妄想はとどまるところを知りません。)
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プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。
好きなもの・こと
●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc
●読書(マンガ含む)
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫
●剣道
●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。