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新たなる夜明け
――年が、明けたな。
男は、何も言わずに太陽が昇るのを窓越しに見ていた。男が故郷に戻ってから、初めての新年である。聖地イシュヴァールが蹂躙され、イシュヴァール人がこの地を追われたのはもう何年も前のことだ。聖地、民族、家族・・・・・・すべてを奪われた男は憎しみと怒りに我を忘れ、復讐鬼と化した。だた、殺された同胞の無念を思い、怒りに燃え、故郷を焼き滅ぼした国家錬金術師の命を奪って、奪って、奪った。ただ、ひたすらに・・・・・・。
――こうして新しい年が明けるのを見るのは、何年ぶりだろう。あのころは、復讐だけが己れが生きる意味だった。ただただ、我らを滅ぼした人間を滅ぼすことのみを考えていた。その後のことは一切考えず、時間の観念など全くなく、己が生きているという実感すらなかった・・・・・・。
そんな自分が再び故郷で新しい年を迎えているかと思うと、奇妙な感じがした。決して戻ることはないと思っていた神の地。戦乱の傷跡は深く、村は荒れ、大地には今でもたくさんの同胞が弔われることもないまま眠っている。
――荒れ果てたこの地を見ると、今でも己れの中の憎しみと怒りが頭をもたげてくる。だが、己れ自身もあまたの命を奪い、計り知れぬ罪を犯した。決して償うことのできぬ罪。償うことができぬなら、せめて、一生この罪を背負って生きていこう。
奪った命は戻らない。犯した罪は償えない。できることといえば、己が犯した罪を一生背負っていくことだけ――それは、深い傷を負い、自らも罪を重ねたこの男が、誰よりもよく分かっている。
太陽はゆっくりと昇っていき、男と、イシュヴァールの地を照らした。どこまでも広がる砂と岩の地。日がまた昇り、季節が巡っていくように、この地も命を吹き返し、かつてのように、いや、かつてよりも輝きを増して、力強く生きてゆくことだろう。
――己れは命ある限り、イシュヴァールと共に生き、この身と人生を、すべてこの地に捧げよう。この地が戦火に包まれ、かつての己れのような憎しみという名の膿が、もう二度と生まれることのないように。すべてが過ぎ去った今、それが己れが生かされている意味だと、心からそう思える。
この新たなる年が、イシュヴァールにとっての「新たなる夜明け」となるように。昇りゆく太陽を見ながら、男は胸の奥で静かにそう願った。
◇あとがき◆
新年企画ということで、イシュヴァールの初日の出を見て感慨にふけるその後のスカーさんを書いてみました。最初はマイルズさんとの会話にしようかと思ったんですが、初日の出の時間帯にマイルズさんがスカーさん宅に訪ねてくるのもなんかおかしいので(汗)、一人で思いを巡らせる話にしました。話というほど展開はないんですが、一人たたずむ孤高なスカーさんを書きたかったので!
「初日の出」というと変に日本っぽくなってしまうので、「初日の出」という言葉はあえて使いませんでした。イシュヴァールは自然と共に生きる文化なので、新しい年に初めて太陽が昇る時というのは特別な意味を持ってそうですが。
復讐心から解放されたスカーさんが約束の日以降イシュヴァールに戻って初めて新年を迎えて、過去を振り返りつつも新しい年にイシュヴァール復興の思いを託す・・・・・・。「新年」という言葉から、スカーさんのそんな姿が浮かびました。
でも、スカーさんって真面目だから、「イシュヴァール復興に尽力する」と決めたら本当にそれしか考えずに自分のすべてを捧げてそうで心配です。少しは自分のことも顧みてほしいんですが・・・・・・。こういう真面目なところも好きだけど、結構極端なんだよなぁ。個人としての幸せもちゃんと見つけてね、スカーさん。
って、あとがきなのにだんだんスカーさんに向かって話してる!!すいません;今年はもっと小説とスカー語りをしたいなぁ。相変わらず更新は遅いと思いますが、どうぞよろしくお願いします☆
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プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。
好きなもの・こと
●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc
●読書(マンガ含む)
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫
●剣道
●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。