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こんばんは。翻訳が忙しくてまたもやブログを捨て行っていたMs. Bad Girlです。
やっと、やっと、『激情を越えて』の続きをアップすることができました!本当は2章を最後まで書きたかったんですが、再会時の師父の弟子への対応に行き詰まったんで途中で止めておきます(汗)。中途半端ですみません;;
いや、何が行き詰まってるかって、師父は自分の言葉を聞き入れずに復讐という修羅道を進んで行った弟子が再び現れた時に、何て声をかけるのかってとこなんです。師父の性格的に頭ごなしに怒鳴ることはないだろうし、かといって、「おお、よく来たな」なんて温かく迎えるわけにはいかないはず。弟子は罪を犯してるんだから。で、師としてはどうしてもそこを咎めないといけない。でも、再会した時に「この者は変わったな」ってすぐに気付くと思うんですよ。殺気とか復讐心が消えてるなって。そこに気付いた上であえて復讐のことを責めるのもどうなんだろう・・・・・・。せっかく弟子が新たな使命を見つけたのに、そこで過去の罪を言うのは逆効果では?いやいや、師とはそういう風にどこまでも厳しいものなのか・・・・・・。
とか色々考えちゃって、一人でぐるぐるなってます;どうしよう。とりあえず、師弟が二度目の再会を果たすまでをつづきからどうぞ!(あ、逃げた)
Ⅱ.2つの再会
スラムの外れに、小さな小屋がある。比較的新しいが、きわめて簡素な小屋で、人ひとりがやっと暮らせるような最低限の物しか置いていない。この小屋には、僧侶が一人で住んでいた。
――あの者は、今ごろどうしているのだろう。
僧侶がここにやって来たのは半年ほど前のことだった。故郷イシュヴァールが国軍に破壊され、追われるように南に逃げたあの日からもう六年になる。イシュヴァールを支援した南の大国アエルゴにイシュヴァール人たちは亡命を求めたのだが、アエルゴ兵はみなフェンスの向こうで耳を閉ざし、口を閉ざした。裏切られた屈辱に震える手でフェンスを握った感覚が、今でも僧侶の手のひらに残っている。ゆく当てもなく他の僧侶と山間部に逃げ込み何とか生き延びたものの、今年に入って南部にも戦乱の気配が漂い始め、今度は東に向かったのだった。
「傷の男」の噂を耳にしたのは、その最中だった。国家錬金術師ばかりを狙う連続殺人犯。国家錬金術師とは国家資格を持つ錬金術師で、様々な特権を持つ反面、国軍に所属し非常時には人間兵器としてかり出される。イシュヴァールも殲滅戦の名の下に国家錬金術師の苛烈な攻撃を受け、大地は焼土と化した。国家錬金術師に恨みを持つイシュヴァール人は無数にいる。が、「傷の男」がイシュヴァール人で、しかも単独犯と知ったとき、僧侶の心は重く沈んだ。「傷の男」は、おそらく自分が武僧として育てた弟子の一人だろう。
少数民族であるイシュヴァール人は、古くから近隣諸国の侵略を受けてきた。外敵から聖地イシュヴァールを守るため、武力を持った僧侶、「武僧」が誕生したのだ。自らも武僧であった僧侶は、イシュヴァールで若い武僧の指導に当たっていた。
しかし、と僧侶は思った。「アメストリス軍の一般兵十人分に匹敵する」とうたわれたイシュヴァールの武僧とはいえ、国家錬金術師を単独で倒せるだろうか。故郷を焼き滅ぼしたあの強大な力の前に、多くの武僧が倒れたのだ。「傷の男」は、一体どのように・・・・・・。
――まさか。
僧侶ははっとした。弟子の中に、一人だけ兄が錬金術を研究しているという者がいた。とても真面目な弟子は神に背くとされる錬金術を忌み嫌っており、兄とのいさかいが絶えなかったようだが、それでも、心の奥では強い絆で結ばれた兄弟だった。あの弟子が何らかのきっかけで錬金術の力を得、復讐のために国家錬金術師を殺しているとしたら・・・・・・。
「傷の男」が重傷を負ってイーストシティのスラムにかくまわれていると聞いた僧侶は、一人でスラムに向かった。「傷の男」の世話をしているという少年に案内されて小さな小屋に着くと、中から耳慣れた声がした。
「イシュヴァールの武僧は常に修練を・・・・・・」
――やはり、お前だったか。
低くよく通るその声は、紛うことなきあの弟子のもの――。かつて自分が言い聞かせた教えを傷を負っても頑なに守っているところが、いかにもあの弟子らしいと思った。
「師父・・・・・・!!」
突然の再会に感激し、大きく見開かれた紅い目でこちらを見上げるその顔は、六年前と変わっていない。ただ、その額には大きな十字傷がくっきりと刻まれている。愛弟子が生き延びていた喜びと、その弟子が復讐鬼に変わり果ててしまった絶望とが、僧侶の胸の中で入り乱れた。
――この者は修羅の道に堕ちてしまったのか、それとも・・・・・・。
一縷の望みを胸に、僧侶は復讐の愚かさを説いた。この弟子に本来の己の姿がまだ見えていれば、師の言葉が届くだろうと信じて。
「恨みたい気持ちは分かる。だが、復讐は新たな復讐の芽を育てる。そんな不毛な循環は早々に絶ち斬らねばいかんのだ」
弟子は何も言わず、微動だにせずに、ただ黙って聞いていた。
「堪えねばならんのだよ」
僧侶がそう言ったとき、弟子が口を開いた。
「しかし・・・・・・。しかし、これ以上何を堪えろと言うのですか! 神の地は踏みにじられ、民の誇りは汚され、同胞の尊き命は奪われたのですよ!! それなのに、奴らは・・・・・・、国家錬金術師は、何の裁きも受けずにのうのうと生きている。我らの苦しみなど、とっくに忘れているのでしょう。それが・・・・・・、己れにはどうしても堪えられぬのです」
気丈な弟子の声が、わずかに震えているように思われた。復讐をすることで、国家錬金術師に自分たちの犯した罪の深さを思い知らせ、同胞の無念を晴らしたい。そのためだけに、この弟子は生きている。弟子の苦しみ、怒り、そして悲しみ。それが僧侶には痛いほど分かった。しかし、だからこそ、弟子の行いを認めるわけにはいかない。
僧侶が言葉をかけようとしたそのとき、「傷の男」を狙った賞金稼ぎが現れた。
「己れがここにいては迷惑になるようだ」
弟子はそう言うと、賞金稼ぎにつかみかかった。鍛え上げられた右腕から光がほとばしり、手は鮮血に染まる。その腕には、独特の刺青が施されていた。
――お前は本当に、兄の研究を利用して・・・・・・。
「兄が悲しむぞ」
僧侶の口から、自然とそんな言葉が発せられた。イシュヴァールとアメストリスの共生を夢見て、錬金術の研究に励んでいた兄。その兄のことは、この弟が誰よりも知っているはずだった。
「もう、後戻りはできぬのです」
「たしかに、後戻りはできぬ。しかし、これから向かう先なら、変えることができるのではないのか」
その問いかけには答えず、弟子は紅い目をサングラスで隠して去っていった。
――感情を排するようにかけたサングラスの下で、あの紅い目はどのような表情をたたえていたのだろうか・・・・・・。
僧侶が回想にふけっていると、外からあの少年の声がした。
「坊さーん、いる?」
「ああ、お前か。今日はどうした」
「へへーん。坊さんがびっくりするようなヤツを連れてきたんだ」
不思議に思って顔を上げると、目に入ったのは、強い意志を宿した紅い目と十字傷――。「傷の男」と呼ばれるあの弟子の姿だった。
「お久しぶりです、師父」
男はそう言って、その場にひざまづいた。両手を握って地面につき、頭を深く下げる。目上の者に対する敬意を示す、イシュヴァールの武僧の作法だ。
――本来、己れにはこうして師父にお会いする資格などない。
半年前に別れてからというもの、師の言葉を無視して去って行ったことに対する罪悪感が常にくすぶっていた。幼いころから武僧として自分を厳しく鍛え、温かく教え導いてくれた師を、男は「師父」と呼んで心から敬い慕っている。だからこそ、修羅に堕ちた自分が師の側にいてはならないと思った。
――誰一人、我が業に巻き込んではならん。己れは、もはやこの方の弟子などでは・・・・・・。
あの時は自らにそう言い聞かせながら、沸き起こる感情を押さえ込むように、紅い目をサングラスで覆った。
「お前、か」
無視して去ったにもかかわらず、再び師のもとに現れた男に、淡々とした声が降りかかる。温かく迎えられているわけではないが、かといって、激しく責められているわけでも、冷たくあしらわれているわけでもない。真意が読めない、しかし、いかにもこの師らしい迎え方だった。
ここに来るまで、何を言おうか、どのように言おうかと、さまざまに考えを巡らせてきた。あれからも復讐の道を進み、自らがまいた復讐の芽を目の当たりにし、旅の中で真の敵の存在を知り、復讐の芽が己に対する怒りをじっとこらえる姿に心を動かされ、ようやく己の誤りに気付いた。命と引き換えに自分に錬金術を託した兄の遺志も知った。そんな男が己の歩むべき道を見定めるときにいつも心に浮かんだのは、「堪えねばならんのだよ」という師の言葉だった。
なのに、いざ師と対面すると、頭の中が真っ白になる。威厳に満ちた圧倒的な師の存在に、身がすくむような思いがする。いくら自分の罪を悟ったとはいえ、あの時師を無視して去っていった自分がいきなり現れて師の協力を仰ぐのは虫が良すぎるのではないか。たとえそれが、兄の遺志を受け継ぎ、同胞の存在をこの国に認めさせるためであったとしても。
「どうした」
言葉が、出てこない。情けなくなるくらいに。今まで自分が犯した罪ばかりが頭の中によみがえり、男は押しつぶされそうになった。
――もう、後戻りはできぬ。
あの時は師のもとを離れるためにつぶやいた言葉を自分に言い聞かせ、男は師に向き合った。
「師父、お願いしたきことがあって参りました。どうか、お聞きください」
追い返されそうになったらすがりついてでも、師の協力を得なければならない。それが、この男が選んだ道、新たなる使命なのだから。
「そうか。ならば、話は聞こう。だが・・・・・・」
そう言って、少し間を置く。
「その前に、お前の話を聞かせてくれ。あれからお前が何をし、なぜここに戻ってきたかを。見聞きしたもの、出会った人々、犯した罪も、全て隠さずに」
「犯した罪」という言葉が突き刺さり、男はぞくりとした。すでに見抜かれている。しかし次の瞬間、胸の奥で熱いものがじんわりと広がっていくのが分かった。
――師父は、己れを見捨てないでいてくださった・・・・・・。
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プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。
好きなもの・こと
●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc
●読書(マンガ含む)
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫
●剣道
●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。