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こんばんは。前回の第2章の続きです。
どうにか、師弟の会話を考えることができました。やっぱり、どこまでも厳しく弟子の罪を咎めることにしました。原作7巻での再会では、弟子が黙り込んじゃってるし、チンピラが乱入してきて全然師弟の会話が成り立ってないので、二度目の再会では、やはり師父は弟子の罪を咎めるんだろうと。そうして清算しないと、この師弟の会話は前に進まないと思います。罪を自覚した後に、さらに自分が最も尊敬している師父から罪を責められるので、弟子としてはめちゃくちゃ辛いですが!書きながら、「ううう~、さらに辛いことになってごめんね、スカーさん~~;;」と謝ってしまいました(何なんだ)。
これで2章が終わり、次回は第3章に突入です。いつアップできるかは不明ですが、次回予告をしてしまうと、第3章では子スカが出てきます!お楽しみに(って、楽しむような内容ではありませんけど)。
それでは、2章後半をつづきからどうぞ!
半年ぶりに弟子の顔を見たとき、変わった、と思った。相変わらず眼光は鋭いが、抜き身の刀のようなぎらぎらした殺気が消えている。
――何があった。この半年で、お前は何を得たのだ。
あれからも復讐の道を進んでいった弟子は、ある少女と出会った。金髪に、透き通るような青い目――。典型的なアメストリス人の容姿を備えた少女は、六年前、国家錬金術師の攻撃を受けて瀕死状態に陥っていた弟子の命を救った医者夫婦の娘だった。攻撃で家族を奪われ、一人だけ生き残ったことを知った弟子は錯乱の中で医者夫婦を殺めてしまった。一度は悲しみにわななく手で、弟子に銃口を向けた少女だったが、胸の内に沸き起こる憎しみと怒りに堪え、医者の娘として両親の仇の傷の手当てをしたという。父と母が生かした命には、何か意味があるはずだと言って。
「その医者夫婦の話は、シャンから聞いた」
「シャン様から?」
「ああ。シャンもその医者に救われたそうだ。お前が医者夫婦を手にかけるのを目の当たりにしたといっていた。それに・・・・・・」
僧侶はためらった。この言葉を今、弟子に伝えるべきだろうか。復讐の愚かさを理解し、改めて師の前で己の罪を静かに語る弟子。しかし、その罪によって傷ついたのは弟子一人だけではなく・・・・・・。
「それに、シャンは、お前がイシュヴァールの名を貶めたと言っていた」
深く、重苦しい沈黙が流れた。自らの罪が、憎しみの対象である国家錬金術師の命だけでなく、大切な同胞の誇りまでも奪っていたという事実。突きつけられた「もう一つの罪」に打ちのめされ、弟子の逞しい体躯が小刻みに震える。
「どうした。そこまでは考えが及ばなかったか。半年前に儂が訪ねてきたとき、お前は同胞のために国家錬金術師に裁きを下すと言った。だが、お前が一人で国家錬金術師を殺してどうなると思った? 我らイシュヴァールの民の苦しみを、お前一人で全て背負おうとでも? そのようなことは、ただの思い上がりに過ぎぬ。むしろ、イシュヴァール人であるお前が国家錬金術師を殺すことで、イシュヴァールの名を辱めることになってしまったのだ。分かるか?」
「ゆえに・・・・・・、己れ一人で・・・・・・。誰一人、巻き込まぬように、と・・・・・・」
絞り出すように、弟子の口から発せられた一言だった。弟子の意図は、僧侶にもよく分かっていた。それでもなお、追及の手を緩めてはいけない。
「いや、人は他人を『何者であるか』で判断し、分け隔てるもの。異民族であるイシュヴァール人に対してはなおさらのことだ。「傷の男」がイシュヴァール人だと知れば、アメストリス人はイシュヴァール人全体を『野蛮な民族』と見なすであろう。それに同胞からも、お前は疎まれることになる。お前の意図に関わりなく、だ。そんなことも分からず、お前は自分だけが手を汚し、傷つき、罪を背負えば良いと思っていたのか? その挙げ句、人を傷付け、自らも傷を負わなければ、己の罪に気付かなかったというのか。この・・・・・・、愚か者が・・・・・・」
弟子の罪を咎めながら、声を震わせている己がいた。幼いころから、この弟子のことを知っている。激しく怒鳴ったことも、強く殴ったこともあった。温かく諭し、優しくなでてやったこともあった。そうやって、この弟子の成長をずっと見守ってきたのだ。だからこそ、僧侶には弟子がなぜ「傷の男」と呼ばれる復讐鬼に変貌してしまったかが理解できた。そして、理解できてしまうがゆえに、あまりにも辛かった。
再び流れる沈黙。長い、長い沈黙。罪を自覚した弟子は、何のために再び現れたのだろう。いかなる決意を胸に・・・・・・。
師の言葉の一つひとつが、男の胸に突き刺さった。誰も巻き込まず、自分一人で全てを背負い、手を汚し、乗り越えたと思い込んでいた自分が、いかに未熟で、愚かだったことか。やはり、自分がこの国を変え、同胞の存在を認めさせるなど、とてもできないと思った。そのような資格が、自分にあるわけがない。その時、沈黙を払いのけるように、師が口を開いた。
「・・・・・・して、儂に頼みたいこととは何だ」
男が答えに窮していると、心の中で懐かしい声がよみがえった。
――負の感情が集まれば、世界は負の流れになってしまう。逆に、正の感情を集めて、世界を正の流れにする事もできる・・・・・・。
――兄者・・・・・・!
そう、これはもう自分だけの問題ではない。イシュヴァラの教えに縛られずに錬金術の研究に生涯を捧げ、己に命を託した兄の、希望であり、生きた証なのだ。
「ご存じの通り、我が兄は、錬金術を研究しておりました。兄が遺した研究を完成させるために、師父の、そして同胞の力を貸していただきたいのです。我らイシュヴァールの民の存在を、この国に認めさせるために」
男の話を聞いた師は、しばらくの間、黙考していた。
「そうか、お前の兄の意志、そしてそれを継ごうというお前の志はよく分かった。しかし、「傷の男」であるお前が今度はイシュヴァールを認めさせると言っても、反発する者は多いはずだ。それでもお前は、皆を説得し、志を遂げる覚悟があるのか? そのことを、いま一度お前に問いたい」
覚悟・・・・・・。復讐の愚かさに気付いてから、一瞬たりとも己の罪の重さを忘れたことはない。「もう一つの罪」に気付かされた今、その重みは増すばかりであった。それでも、いや、だからこそ、この使命を全うせねばならない。
「・・・・・・己れは本来ならすでに死んでいるはずの身。その上神に背き、罪を重ねました。どのようなことをしても、この罪は償えぬと思っております。いかなる責めを負おうとも、甘んじて受けるつもりです。しかし、兄のためにも、この練成陣は完成させねばなりません」
男はそう言うと、顔を上げ、師の紅い瞳をまっすぐ見た。
こちらを見つめる弟子の紅い目には、強い意志が宿っていた。迷いのない目。しかし、それでいて、どこか悲しみをたたえ、苦しみを堪え忍んでいるのを僧侶は見逃さなかった。
――そう、お前はいつもそうだった。あの頃と、何も変わっておらぬ。あの惨劇のあと、お前が許すことができず、憎み続けているのは、国家錬金術師でも、国軍でも、アメストリス人でもなく・・・・・・。
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プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。
好きなもの・こと
●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc
●読書(マンガ含む)
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫
●剣道
●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。