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こんばんは。2週間ぶりの更新です。『激情を越えて』の続きをアップする予定だったんですが、最終話以降のスカ坊で短編を思いついたのでこちらを載せます。『激情』も次回更新分をほとんど書き終えたので、遅くとも今度の週末にはアップできるかと!
では、スカ坊短編をどうぞ~。
「ありがとうございましたっ!」
ふう、やっと終わった。まったく、オレがヨレヨレになるまで許してくれねぇんだもんな。こっちは立ってるのが精一杯だ。それでも何とか持ちこたえて、師匠に終わりの礼をする。
「よし。今日はこれまでだ」
オレの師匠は、すごく大きくて、強くて、厳しくて、顔にバッテンの傷がある。だから、みんな「スカー」って呼ぶんだ。オレは「師匠」とか・・・・・・、たまに「おっちゃん」って呼ぶけど。え、師匠を「おっちゃん」なんて呼ぶなって?いや、そうなんだけど、昔は「おっちゃん」って呼んでたからそのクセが抜けなくてさ・・・・・・。1年ぐらい前に体術と錬金術の弟子になってからは「おっちゃん」って呼ぶとすごく怒られてたけど、オレがいつまでもそう呼ぶもんだから師匠の方が折れた。「もういい。好きに呼べ」だって。これでも、オレなりにちゃんと呼ぼうって気を付けてるんだぜ? ま、何と呼ぼうと師匠は師匠、弟子は弟子ってことで。何だかんだ言っても、オレはおっ・・・・・・、じゃなくて、師匠のことが好きだし、めちゃくちゃ尊敬してる。だって、イシュヴァール人なのにバッチリ錬金術を使いこなせて、錬金術を使ってイシュヴァール人の存在をこの国に認めさせたんだから。
「お前、夕飯を食べていくか」
帰る支度をしながら、おっちゃんはこっちも見ないで聞いた。
「あ、うん。食べる!」
おっちゃんはイシュヴァール復興の仕事をするかたわら、「いしゅばら亭」っていう食堂をやってる。ごつい体と強面からは想像できないかもしれないけど、実は手先が器用で、料理がすごくうまい。体術の修練の後は、たいていいしゅばら亭でごちそうしてくれるんだ。ヘトヘトになったあとだから、本当においしくて、もう食べられないってなるまで食べちゃう。「腹八分目にしろ」って怒られるけど、おっちゃんだってオレが「おいしい」って言うとなんだかうれしそうだ。口数が少ないし、あんまり笑わないけど、おっちゃんは本当はすっごく優しいんだ。
いしゅばら亭への道を2人で並んで歩きながら、オレはずっと気になってることを聞いた。これまでにもう何度も聞いてる、それでも、一回も答えてもらったことがない、あのことを。
「おっちゃん・・・・・・、本当の名前、何ていうの?」
おっちゃんはちらりともオレを見ないで、黙って歩き続ける。
「言いたくないのは分かってる。でもさ、オレ、おっちゃんの・・・・・・、師匠の弟子だし、やっぱり、本当の名前が知りたいんだ」
しばらく歩いてから、おっちゃんはため息一つついて振り返った。
「まったく。お前もしつこいな。己れの名を聞く前に、いい加減『おっちゃん』はやめろ」
「えー? だって、『好きに呼べ』って言ったじゃん」
「しかし、師弟の間には礼節というものが・・・・・・」
「だから、修練の時はちゃんと『師匠』って呼んでるだろ。そんなことより、本当の名前教えてくれよ。名前って、その人を表す大事なものだと思うから。オレは・・・・・・、自分の師匠が『傷』って呼ばれるのが嫌なんだ」
オレは真剣な顔で師匠を見つめた。おっかなくて素っ気ないけど、本当はあったかくて優しい師匠。昔は復讐の鬼になったけど、間違いに気付いて自分が変わり、イシュヴァール復興のために誰よりも一生懸命働いてるおっちゃん。過去を消すことはできないけど、自分の犯した罪を背負って生きているこの人が、いつまでも「スカー」って呼ばれるのはなんか間違ってる気がした。そんなことを考えていたら、なぜか泣きたくなってきた。目の前のおっちゃんがだんだんぼやけてくる。
おっちゃんは無表情でつっ立ってたけど、泣きだしそうなオレをみてフッと笑った。大きな左手で、オレの頭をそっとなでる。その腕に刻まれているのは、再構築の練成陣だ。
「ありがとう。お前の気持ちはよく分かった。だから、泣くな」
「うん・・・・・・」
「やはり、お前には、己れの名を言っておこう」
「え? ホントに?!」
思いも寄らない言葉だった。まさか、本当に、おっちゃんの名前を聞けるなんて。
「ああ。いいか、神より賜りし我が名は・・・・・・、」
おっちゃんはそこで止めて、大きく息を吸った。大きな体をかがめて、紅い目でオレをまっすぐ見据える。
「『シャディール・アクラム』」
「シャディール・・・・・・、アクラム・・・・・・」
オレは一つひとつの音を味わうようにゆっくり口に載せた。おっちゃんの名前。オレの師匠の名前・・・・・・。
オレが感動してると、おっちゃんがいきなり笑いだした。
「ちょっ・・・・・・、何がおかしいんだよ?」
「嘘だ」
「へ?」
「今の名は、己れのでまかせだ。第一、少しもイシュヴァール人らしくないだろう。お前というやつは、すぐに本気にして」
「何だよそれ!!! ひでぇじゃんか!!」
頭に来てつっかかるオレの拳をひらりとかわし、おっちゃんはまたいしゅばら亭へ歩きだした。その背中に向かって、オレは力いっぱい叫んだ。
「オレが師匠ぐらい強くなったら、師匠をボコって力ずくでも聞き出してやるからな! 覚えてろ!!」
悔しいけど、師匠にはまだまだ敵わない。でも、この日オレは今まで知らなかったおっちゃんを見た気がした。やっぱり、オレはこのおっちゃんがすごく好きだ。そう思いながら、オレは大きな背中に向かって駆け出した。
あとがき
今日は4月1日。エイプリルフールで何か書きたいと思って、スカーさんとエイプリルフールといえば本名ネタしかないだろうということに(笑)。
場面設定としては約束の日から数年後。イシュヴァール復興が軌道に乗ってきてスカーさん自身も落ち着いたころに、スラムの坊やを弟子にしているといういつぞやの妄想ネタを元にしています。坊やをからかうあたりビミョーにキャラが違いますが、こういうことができるぐらいにスカーさんが心の余裕を持てていたらいいなと思います。
子スカが師父を尊敬するみたいに、坊やも弟子になったらスカーさんを尊敬するんだろうな。でも、この子は子スカみたいに律儀じゃないので、ついつい「おっちゃん」って呼んでそう。で、スカーさんは弟子を持つことで初めて、師父の気持ちを本当に理解できていたりして。今度は師父も登場させて、この師弟3代を書いてみたいです。
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プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。
好きなもの・こと
●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc
●読書(マンガ含む)
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫
●剣道
●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。