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『鋼の錬金術師』のスカーに惚れてしまったMs. Bad Girlによる、スカーファンブログ。初めてご覧になる方は、冒頭にあるのサイトの説明を読んでから閲覧をお願いします。無断転載禁止。               Since 2011/09/19
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予告通り、『激情を越えて』の4章をアップします。イシュヴァール内乱勃発時で、弟子が15歳ぐらいです。あの弟子の性格からすると、こういうことになってそうだなと思います。本当は勃発時だけのエピソードにするつもりだったんですが、書いているうちに講釈の話も思い付いて、結局また長くなってしまいました。4章にはまだ続きがありますが、それは次回。4章が終わると、現在の話に戻ります。

それでは、どうぞ。


Ⅳ.神の意思

 神が我らに与えたのは、砂と岩に覆われた厳しい土地。乾いた風が吹きすさみ、砂嵐が巻き起こる。それでもイシュヴァールの民は、遥かな昔からこの地と共に歴史を刻んできた。神を崇め、文化を育み、街を造り、自然と共に歩んできた。外敵の侵略には一丸となって抵抗し、聖地を守り抜く。我らはずっと、イシュヴァールの地にしっかりと足を付けて生きてきたのだ。隣接する大国アメストリスに併合されたあとも、それは変わらなかった。圧倒的な力の差や価値観の違いがあろうとも、イシュヴァールの民はアメストリスに屈することなく、自尊心を保ち続けた。いかなる状況になろうとも、我らは神より賜りし地を手放しはしなかった。

--あの出来事が起こるまでは。 

 入門から5年、逞しく成長したお前は一段と修行に励んでいた。修練では一切手を抜かず、相変わらず倒れるまでやめようとはしなかったが、それは武僧を志す者として当然のこと。しかし、この頃のお前は入門当初に比べて自分の限界というものを把握できるようになってきており、日々繰り返される修練の中でその限界が少しずつ引き上げられていくことに喜びを感じているようだった。そんなお前の成長を見守ることは儂にとって愉しみであったし、安堵感を覚えた。このまま成長すればお前は聖地の守護者だけではなく、イシュヴァールの民の柱となるような立派な武僧になるだろう。
  13年前のあの日、儂は僧院の講堂で弟子たちを前に講釈をしていた。
「いつも言っているように、武僧の使命は何があってもこの地を守り抜くことだ。そのためには己を強く持ち、いかなる時も生き延びなければならぬ。戦いで命を散らすことが誉れなどと思ってはならん」
「しかし、己のことばかり考えているのでは、いざという時に迷いが生まれるのではないでしょうか。逃げ出さぬよう、命を捨てて戦いに臨むことこそ武僧のあるべき姿なのでは?」
 一人の弟子の意見に他の者が同調し、講堂がざわめく。お前は一人黙り、何かを考えるふうをしていた。
「命を捨てて戦いに臨むということは、確かに潔く、まさしく武人の鑑(かがみ)であるように思えるかもしれん。しかし、それは武僧としてあるべき姿に反する。なぜか分かる者は?」
 命はかけがえのないものだから、死んではならないから、などと弟子たちが思い思いの答えを言う。しかし、儂の意図している答えはその中にはない。その時、お前が静かに口を開いた。
「戦いで命を落とせば、この地を守ることができないからです。そうすれば、我らは神から与えられた武僧の使命を果たすことができず、神の意思に背くことになります」
「その通りだ。死を覚悟するということは、結局のところ、生きることをあきらめるということだ。我らの命は、この世で己の役割を全うするために神から与えられたかけがえのないもの。しかも、お前たちの役割は神の地を守る武僧だ。ゆえに、決して命を捨ててはならない」
 弟子たちが納得したようにうなずく中、お前は視線を落とし、眉間にしわを寄せた。何か腑に落ちぬことがある時にお前がよくする仕草だった。
「師父、一つお聞きしたいことがあるのですが」
「何だ」
「この地を守ることが武僧の使命で、ゆえに命を捨てることは神の意思に背くこと。それでは・・・・・・、もし、使命を果たせずに生き延びてしまったら、それは、神の意思に沿っていると言えるのでしょうか」
 儂は息を呑んだ。何ということを言うのだろう。なぜ、この者はそのように考えてしまうのだろうか。
「お前は、自分が武僧としての使命を果たせぬかもしれないと思っているのか」
「いえ、誓ってそのようには考えておりません」強ばった声が返ってきた。
「では、なにゆえそのようなことを聞く」
「己の役割を全うできなかったとしたら、生きる意味はあるのか、と思って・・・・・・」
「己の使命を果たさぬうちから、そのようなことを考えるな」
「はい。申し訳ございません」
 お前はうなだれ、講堂の床をじっと見つめた。そんな弟子に、そっと声をかける。
「たとえ一度果たせなかったとしても、生きてさえいれば、いつかは使命を果たすことができる。常に自分に何ができるかを考えよ」
 その時、回廊にせわしない足音が響き渡った。飛び込んできたのは、一人の僧侶。半年ほど前に一人前になった僧で、村と僧院を取り持つ伝達係をしていた。記憶力や話術に長けている反面、少しそそっかしく気が小さいところがある。
「ひ、広場、広場で・・・・・・」
 息も絶え絶えで、顔は青ざめている。息を切らしている上にひどく狼狽しているため、その口から発せられる言葉は意味をなさない。何を慌てているのだといつものようにたしなめようとしたが、その狼狽ぶりは尋常ではなかった。何かおぞましいものを見てきたように、全身が絶え間なく震えている。
「どうしたのだ。落ち着いて、順序立てて話せ。さあ、ここに座って」
 何とか座らせると、僧は唾をごくりと飲んだ。動揺を必死で押さえ、重い口を開く。
「先ほど、広場で、アメストリスの将校が・・・・・・、少女を撃ち殺したとのことです」
 講堂は騒然となった。何ということだ、なぜだ、と弟子たちが口々に叫ぶ。ついに戦が始まるのか、おれたちはどうなるんだという声も聞こえてきた。
「静まれ! まだ戦になると決まったわけではない。うろたえてはならん! 武僧たる者、常に毅然としていろ!!」
 混乱する弟子たちを一喝すると、その場は水を打ったようになった。努めて穏やかな口調を保ちつつ、続きをうながす。
「広場ではすでに民による暴動が起き、国軍が鎮圧にあたっているとのこと。大きな戦にならぬよう、大僧正をはじめ高僧の方々がアメストリス側と交渉をしておられます」
「そうか。それで、国軍は今回の件について何と?」
「誤射だと言っているとのことです」
「嘘だ!!!」
 怒りに満ちた声が講堂を貫き、皆が一斉に声の主に視線を向けた。儂が顔を上げると、目に入ったのは憤怒に震えるお前の姿だった。その気迫に圧倒され、他の弟子は押し黙るばかりである。
「誤射? 人々が行き交う平穏な広場で、どうして軍人が誤って子どもを撃つんだ! そんなことがあってたまるか! 嘘だ! 嘘に決まっている! 子どもを殺しておきながら誤射などと見え透いた嘘を!! そんなことが許されるはずがない!」
 お前はせきを切ったように駆け出したかと思うと、講堂の扉めがけて矢のごとく突進した。紅き目は怒りに燃え、憎しみで何も見えなくなっている。儂はその前に立ちはだかり、肩をつかんで動きを封じた。
「待て。どこへ行く気だ」
「お聞きになるまでもないでしょう。将校に報いを受けさせるのです」
 お前は真面目で意志が強い反面、いったん忍耐が切れると自分を押さえられなくなるところがあった。一度、穏やかで本ばかり読んでいる兄を「この地のために何一つできぬ女々しい男」と他の僧になじられたときなどは、烈火のごとく怒り狂い、取っ組み合いの大喧嘩になるのをすんでのところで儂が止めた。ののしる方が愚かなのは言うまでもないが、己を律することができぬお前もまた愚か。儂が再三にわたって言い聞かせても、そこだけは治らないのだ。
「半人前のお前が、一人で将校の命を奪う気か? そんなことは、この私が許さん」
 お前は何かをこらえるように歯を食いしばると、憤怒と憎悪をたぎらせた目で儂をにらみつけた。そこにいるのは、もはやあの実直で誠実な弟子ではなく、激情に我を失いかけている無分別な少年だった。
「師父、なぜ止めるのです! このような時に備えて、我らは修練を積んできたのではないのですか!! 外敵の危険にさらされているゆえ、常に修練を怠ってはならぬと、師父はいつもおっしゃっているではありませんか!」
 焼けつくような怒り。儂は何かが音を立てて崩れていくのを感じた。この地を守ること、武僧としての自覚、己を律すること、己を見極めること、強さ、弱さ、そして、優しさ。入門から今までの間に儂が教え、お前が学び取ってきたことが、一瞬にして破壊されたようだった。儂がお前に伝えた言葉は、託した思いは、それほどまでにはかなく、もろいものだったのか。国軍将校の銃弾一発で砕け散ってしまうほどに。いや、そうではない。お前が積み上げてきたものを、国軍などに奪わせたりはしない。
「そうだ。武僧たる者、常に神の地の守護者としての自覚を忘れてはならぬ。しかし、お前が一人で将校を殺すことが、この地を守ることになるというのか? 怒りに任せて敵を攻めることと、この地を守ることは違う。そんなことをすれば、かえってこの地に攻め入る口実を国軍に与えることになる」
「国軍が攻め入ってくれば迎え討つまで! 今こそ、武僧としての使命を果たす時でしょう! 師父はかつて、『武僧を志す者は優しさを忘れてはならぬ』とおっしゃいました。しかし、師父の言う優しさとは、罪もなき子どもを撃ち殺す輩を野放しにすることなのですか? イシュヴァールの民がアメストリスに踏みにじられても、黙って見ていろと? そんな優しさを持って何になるというのですか! なぜ、師父はいつもそう弱腰なのです!!! おれは、師父とは違う!」
 そう言い放った瞬間、お前は自分の言葉に驚いたように紅い目を見開いた。その目には、かすかに悲しみの色がにじんでいたな。ああ、儂とて分かっていたのだ。お前が激情に流されて師をののしるような言葉を口走ってしまったことを。それがお前の本心ではないということを。にもかかわらず「弱腰」という言葉に怒りを覚えたのは、師としての己の未熟さゆえ。お前の師としての務めより、武僧としての誇りが先に立ってしまったのだ。それでも、その誇りを胸の奥底にしまいこみ、師として弟子を諭さねばならぬ。
「・・・・・・そうか。何とでも言え。が、今のお前は激情に流されているだけだ。武僧の使命は、血で血を洗うことではない!! 何も分かっていないお前を、ここから一歩たりとも出すわけにはいかん!」
 儂の怒号に衝撃を受けたかのように見えたのも束の間、お前は迷いを絶ちきるように儂から目をそらし、きっと前を向いた。
「通してください! 師父が何とおっしゃろうとも、おれは将校に報いを!!」
 そう言って、儂の手を力任せに払いのける。入門当初ならまだしも、武僧としての修行を5年にわたって積んできたのだ。少年とはいえ、その力は相当なものだった。もはや、他に手立てはない。講堂を出ようと儂のそばをお前がすり抜けようとした瞬間、すれ違い様にみぞおちに一撃を加えた。修練の時と違い、力加減を一切せず、寸分も外さずに。弟子はうめき声と共に、講堂の冷たい床にくずおれた。
  安堵感と無力感がないまぜになって押し寄せる。お前が行き過ぎてしまいそうになったときは止めてやるという誓いを、儂は守り通すことができた。しかし、師としてお前を諭し、己の誤りに気付かせてやることができず、力をもってしか止めることができなかったのだ。
「許せ。こんなことでお前を死なせたくないのだ」
 意識がもうろうとしたままうずくまるお前を見て、儂はそうつぶやいた。

 その後、大僧正を筆頭にした高僧による努力も虚しく、アメストリス側との交渉は決裂。国軍の暴挙に激昂したイシュヴァールの民の暴動は収まらず、やがて内乱へと発展した。怒り、憎しみ、恨み、悲しみ。止むことを知らぬ大きな嵐に飲み込まれ、お前も儂も運命を大きくねじ曲げられていった・・・・・・。

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プロフィール
HN:
Ms. Bad Girl
性別:
女性
職業:
会社員
自己紹介:
都内に住む20代。

プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。

好きなもの・こと

●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc

●読書(マンガ含む) 
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫


●剣道

●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。

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