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『鋼の錬金術師』のスカーに惚れてしまったMs. Bad Girlによる、スカーファンブログ。初めてご覧になる方は、冒頭にあるのサイトの説明を読んでから閲覧をお願いします。無断転載禁止。               Since 2011/09/19
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こんにちは。

一日遅れですが、こどもの日企画! スカーさんが武僧に入門する前の兄スカです。兄13歳、弟7歳ぐらいで設定してます。


つづきからどうぞ。


 小高い丘の上に立つ、大きな木。ずっと昔から、カンダの村を見守っている。その先にそびえ立つのは、僧院の尖塔。紅い目をした少年が、木の下でその尖塔をじっと見つめていた。

――おれは、もうすぐ、あの塔の下で・・・・・・。

「おーい。おまえ、こんなところにいたのか」
 振り返ると、そこには大好きな人の姿があった。眼鏡の下の紅い目は穏やかで、手を振りながら駆け寄ってくる。
「にいさん」
 少年は兄の方に向き直り、笑みを浮かべた。6歳上の兄の姿を見ただけで、不思議と心が落ち着く。まだ十にもならない少年にとって、年の離れた兄は、世界中のだれよりも信頼できる保護者のような存在だった。
「何してたの?」
「うん、ちょっと」
「ちょっとって、何?」
「・・・・・・なんでもない」
「何か、考えてただろ?」
「え、なんで分かったの?」
 少年は驚いたように兄を見上げた。兄弟は、食事をするのも、遊ぶのも、寝るのも、何をするにしてもいつも一緒だった。物静かで賢い兄はどんな時でも弟を見守っているので、弟の些細な変化を誰よりも感じ取ることができるのだ。
「おまえがじっとしてる時は、たいてい何かを考えてる時だから。……何か、気になることがあるの?」
 兄は何でも分かってしまうのかと、少年は気まずそうに目をそらした。もう少し気持ちの整理をつけてから、話そうと思っていたのに・・・・・・。
「あのさ、おれ・・・・・・、武僧になりたいって、思ってるんだ」
「そう」
「そうって、それだけ?」
 不満げに見上げた兄の横顔は、いつもと少しも変わらなかった。神に仕え、聖地に暮らす人々を外敵から守る武僧。神の地の守護者になることはこの兄弟の民族、イシュヴァール人にとって大変な名誉とされている。しかし、長く厳しい修行を経て一人前の武僧になることができるのはほんの一握りだ。そんな厳しい道を弟が選ぼうとしているのだから、もう少し、驚くとか、喜ぶとか、そういう反応を期待していたのに・・・・・・。
「それだけ、って?」
「え・・・・・・、だから、びっくりしたりとか、しないの?」
 少年は先を促すように兄を見つめた。相手の紅い目が、眼鏡の下で困ったように笑う。
「だって、なりたいんだなって分かってたから。おまえ、前ここで見習いの武僧さんたちが修練してるのを、すごく真剣な顔で見てただろ?」
 そういえば、そうだった。この丘には兄とよく来るのだが、たまに見習いの武僧が修練をしているのに出くわすことがあった。見習いたちはみな真剣そのものといった面持ちで、早駆けや体術の修練に励んでいた。その激しさに圧倒され、かすかな不安を覚えながらも、いや、これくらいのことで怖気づいてはいけない、自分も必ずこの中の一人になるのだと、少年は子供ながらに自らを奮い立たせるのだった。
「でも・・・・・・、にいさんはなんとも思わないの? おれが、武僧になること」
「うーん、そうだなぁ。なんか、ぼくがいろいろ言うのもヘンな気がするし・・・・・・」
 少年は、兄の温厚なところが好きだった。少年の知っている兄は、いつも温かい微笑みを浮かべている。本が好きで、何でも知っていて、面倒見の良い兄は、どんな時も弟に優しかった。父や母に怒られたことがあっても、兄が怒る姿を見たことは一度もなかった。その反面、もっとはっきり物事を言えばいいのにとイライラしてしまうことがある。人を傷つけたくないあまりに、兄が言葉をにごすところを弟は何度か目にしている。自分に対しては、そういう優しさはいらない。少年はそう思っていた。
「むりって思ってるんだったら、そう言えよ」
「え?」
「おれがあんな厳しい修行をできるわけないって、そう思ってるんだろ? だから何も言わないんだろ? でも、おれは絶対、立派な武僧になる。もう、そう決めたんだ!」
「分かってる。だったら、ぼくが何か言うことはないじゃないか」
「え・・・・・・?」
「おまえがそう決めてるんだったら、ぼくは何も言わない。おまえは頑張り屋だから、どんなに厳しい修行でも絶対やり通すと思う。できないなんて、そんなこと思ったりしないよ」
「うん・・・・・・、ごめん」
 少年はなんだか恥ずかしくなった。こんなにも自分を信じてくれている兄を疑ってしまったなんて。この兄のことを、自分は誰よりも信頼しているはずなのに。うつむく少年の頭に、やわらかい手がそっと触れる。
「あやまらなくていいんだよ。おまえがどんな道を選んだって、ぼくはいつもおまえを応援してるからね」
 この兄が好きでたまらない。しかし、武僧に入門したら何年かは兄に会えなくなる。そう思うと、少年の目頭は急に熱くなった。溢れ出すものをこらえようと、少年は必死で話題を変えた。
「にいさん・・・・・・、にいさんは、大きくなったら何になりたいの?」
「ん? ぼく? そうだなぁ・・・・・・、学者さんになりたい」
「がくしゃ?」
「うん。もっともっと勉強して、いろんなことを知りたい。そして、みんなが争わなくてもいい世界を作りたいんだ」
 夢を語る兄の目は、きらきらと輝いていた。争いのない世界。そんな世界が本当にあったらどんなにいいだろう。しかし、そのような世界と、自分の目指しているものは・・・・・・。
「・・・・・・ごめん」
「え? 何が?」
「武僧はたたかう人だから、にいさんの作りたい世界と反対だね・・・・・・」
「うん、そうかもしれない」
 その答えを聞いて落胆する少年の前に、兄はかがみこんだ。紅く澄んだ目が、少年の目を見つめている。
「おまえは、なんで、武僧になりたいの?」
「それは・・・・・・、ここに住んでる人たちを、まもりたいから・・・・・・」
「じゃあ、それでいいんだよ」
「でも・・・・・・」
「平和な世界を望んでる人たちはいっぱいいる。でも、いくら望んでいても、その人たちが大きな力に押しつぶされたら、その願いはかなわない。悲しいけど、イシュヴァールを押しつぶそうとする力はまだまだ強い。だから、おまえは強くなって、自分の力をそういう人たちを守るために使えばいいんだ。武僧は戦う人じゃなくて、守る人だから」
 少年の紅い目が、大きく見開かれる。守る人・・・・・・。自分の目指すべきものが、はっきり見えた気がした。そして、そんな自分の夢を兄が認めてくれたことが、何よりも嬉しかった。
「うん!」
 力強くうなずくと、兄は弟の頭をくしゃくしゃとなでた。何があろうと一人前の武僧になって、この地に生きる人々と兄の夢を守り抜こう。小さな胸に大きな志を秘め、少年はもう一度僧院の尖塔を見つめた。


◇あとがき◆

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。私にとって、初の兄スカです。

年の離れた兄って、特に小さいころは半分親みたいな感じで、弟は兄のことが世界一大好きだったんだろうなという想像です。だから、子スカは武僧になるって決めたときも、まず兄者に話したんだろうなと思いました。

二人ともまだ子供なので、大人になった時と言葉づかいが違います。スカーさんの「兄者」という呼び方は武僧仕込みで、入門前は「にいさん」って呼んでたと思う! で、入門後に武僧としての心構えとか振る舞い方なんかを教わって、だんだん「兄者」って呼ぶようになっていったんだと妄想してます。兄者は普通に「父さん・母さん」だし。

舞台になってる丘ですが、15巻で瀕死のスカーさんがカンダ地区の様子を見るために上る丘をイメージしています。壊滅した自分の村を見てスカーさんが号泣するあのシーンは、何度見ても泣きそうになります。単に小高い所があったから上っただけでしょうが、兄者と一緒に来たり、修行時代に修練の場になってたりと、スカーさんにとって実は特別な場所だったんじゃないかと管理人は勝手に思い込んでいます。

激情家で武人な弟と、温厚で平和を目指す兄。原作では内乱時の兄弟しか描かれていないので、この対比が辛いですね。原作で兄者が「人の幸福のために錬金術を学んでいるんだ」と言うのを聞いた後に、スカーさんが内乱で苦しんでいる人たちを見て「こんな世の中で本当に理解しあえるというのか・・・・・・、兄者よ」と一人つぶやくシーンが痛々しいです。正反対の道を行く兄弟だけど、兄の夢を信じたいという気持ちと絶望とのはざまで葛藤している弟を見ると、本来は二人とも同じものを夢見ていたんだなと思います。小さいころから兄にはそれが分かってて、武僧という弟の生き方を見守っていたんだろうなと思って、この短編を書きました。全てが終わった後、スカーさんが今度は本当に兄者の夢を信じて生きていけたらいいな。

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プロフィール
HN:
Ms. Bad Girl
性別:
女性
職業:
会社員
自己紹介:
都内に住む20代。

プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。

好きなもの・こと

●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc

●読書(マンガ含む) 
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫


●剣道

●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。

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