『鋼の錬金術師』のスカーに惚れてしまったMs. Bad Girlによる、スカーファンブログ。初めてご覧になる方は、冒頭にあるのサイトの説明を読んでから閲覧をお願いします。無断転載禁止。 Since 2011/09/19
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こんばんは!
最近週末に用事が多く、ブログタイムをなかなか取れませんでした。また1カ月ぐらい間が空いてしまいましたが、やっとこさ6章の中編アップです。主に師父マル。書いてみて初めて分かったんですが、師父マル難しい!ここで初対面なので、間というか、距離の取り方が微妙でした。実は筆が進まなかったのにはここにも原因が; でも、年は近いはずだし、マルコーさんはイシュヴァールで暮らすことになるので、最終話後は良い友人になってそうな二人。それぞれの立場から、スカーさんを見守っててほしいな。
今回がこの章のメインですが、もうちょっと書きたいことがあるので後編に続きます。それでは、つづきからどうぞ~。
最近週末に用事が多く、ブログタイムをなかなか取れませんでした。また1カ月ぐらい間が空いてしまいましたが、やっとこさ6章の中編アップです。主に師父マル。書いてみて初めて分かったんですが、師父マル難しい!ここで初対面なので、間というか、距離の取り方が微妙でした。実は筆が進まなかったのにはここにも原因が; でも、年は近いはずだし、マルコーさんはイシュヴァールで暮らすことになるので、最終話後は良い友人になってそうな二人。それぞれの立場から、スカーさんを見守っててほしいな。
今回がこの章のメインですが、もうちょっと書きたいことがあるので後編に続きます。それでは、つづきからどうぞ~。
遠ざかる弟子の足音を聞きながら、僧侶が話し始める頃合いを見計らっていると、背後から不安げな声がした。
「あ、あの・・・・・・」
マルコーは視線を泳がせた。こんな大事な話をする前に弟子にわざわざ菓子を取りに行かせたのだから、よほどの奇人だと思われたに違いない。
「錬金術のことをお話しするといっても、一体どこから・・・・・・。それよりも、早く研究書のことを・・・・・・。でも、スカーがいないと詳しい話ができませんし・・・・・・」
どうやら、思った以上に動揺させてしまったらしい。僧侶は姿勢を正すと、マルコーを落ち着かせようと柔和な笑みを浮かべた。
「これはこれは、とんだご無礼をいたしましたことをどうかお許しください。実は、あなたにお聞きしたいのも錬金術のことではないのです」
「え?」
状況が全くのみ込めずに目をしばたかせる医者に、僧侶はゆっくりと向き直った。先ほどのひょうひょうとした雰囲気は影をひそめ、温厚な、しかし威厳と高い徳を備えたイシュヴァールの高僧の姿がそこにはあった。
「お聞きしたいのは、我が弟子のことです」
「スカーのこと?」
「はい。あなたがあの者と出会い、行動を共にし、私を訪ねて来られたいきさつをお聞かせください。私は、あなたの目から見たあの者の姿が知りたいのです」
「それで、スカーにお菓子を?」
僧侶はその問いには答えず、マルコーを見据えたまま話を続けた。温かいまなざしだが、その紅き目は透き通り、全てを見透かすような鋭さがある。
「あなたのことは弟子から聞きました。あなたが、あの内乱でどのようなことに従事していたかも」
マルコーはびくりと身体を動かし、僧侶から目をそらしたが、やがて、あえぐように話し始めた。
「私は・・・・・・、軍医として、また国家錬金術師として、あの内乱に加担しました。賢者の石の製造など、軍内部の最高機密を知ってしまった私は、内乱後に国家錬金術師の資格を捨てて逃亡。名前を変え、東部で町医者をしていたのですが、結局ホムンクルスに見つかり、セントラルの地下に監禁されたのです。脱走や自殺を図れば、医者をしていた町をまるごと破壊すると脅されました。どんなことがあっても、あの町の人たちを巻き込むわけにはいきません。奴らに協力するしか手がなかった。ですが、協力すればこの国全体を犠牲にするような大惨事に加担することになる」
「そこに、あの者が現れたのですね?」
「はい。私も『傷の男』の話は以前から聞いていました。国家錬金術師を標的にする連続殺人犯がセントラルにいると。だからこそ、スカーが私の前に現れたときは、願ってもない幸運だと思った。これでやっと、奴らから逃れることができる。幽閉されていることを話すと、逃がすからホムンクルスの陰謀を世に暴けと言われました。町を丸ごと人質に取られているのですからそれはできません。ああ、事情を話したときのスカーの答えが、いまだに頭から離れない・・・・・・」
「あの者は、何と」
「『民族をひとつ潰された我らが、そんな話に同情すると思っているのか』と・・・・・・」
僧侶は言葉を失った。罪もない人々を巻き込みたくないと苦悩する医者に対して、このような言葉しか言えなかった弟子。この言葉を放ってしまった弟子の気持ちに思いを馳せる。あの弟子の心に巣くう、深い恨みと、傷に・・・・・・。
――お前は怒りと憎しみに我を失って、堕ちてしまっていたのか。人の痛みが、分からぬほどに。
「いえ、当然の言葉だと思いました。私が愚かだったのです。数えきれない人の命を使って賢者の石をつくっておきながら、一つの民族の殲滅に与しておきながら、その生き残りであるスカーに対して、あたかも自分が被害者であるような顔をして・・・・・・。しかし、とにかくあの頃は自分の存在そのものが罪深く思え、生きるのが苦痛だった。死んでしまいたかった・・・・・・」
「しかし、あの者はあなたを生かした」
僧侶がそう言うと、マルコーは苦しそうにうなずいた。
「そうです。スカーは私を殺さなかった。殺してくれと懇願すると、スカーは紅い目をはっと見開きました。あの時はこちらも必死で気づきませんでしたが、今思えば、あの瞬間にスカーの中の感情が呼び起こされたのかも知れません。スカーにしてみても、殺そうとする前に相手から殺せと言われたのは初めてだったのでしょうから。しかし、私が内乱に加担したと言うと、あの紅い目を見る見るうちに怒りと憎しみが満たしていきました。本当のことを言うと、私は内心しめたと思った。これで、確実に、生きる苦しみから解放されると・・・・・・」
「生きる、苦しみ・・・・・・」
「スカーが私を生かしたのは、内乱の真相と、兄の研究の真意を知るためでした。私は、自らの罪を償うことなど決してできないと思っています。ですが、ほんの少しでも償いになることがあるとすれば、どんなことでもしたい。最後には殺されたとしても、構わないと思いました。ですが、行動を共にするうちに、スカーが私を殺すことはないと確信が持てるようになったのです。スカーの中に、変化が生まれていました」
「変化?」
その言葉が、一筋の光となって僧侶の心を照らす。垂れ込めていた暗雲が、ゆっくりと散っていくように思われた。
「はい。スカーは当初、我々国家錬金術師に対する復讐のためだけに生きていたのでしょう。しかし、ホムンクルスの存在を知り、復讐心よりも真実を知りたいという気持ちが強くなったのだと思うんです。そして、ロックベルのお嬢さんに出会い・・・・・・」
「あの者の命を救い、あの者が命を奪った・・・・・・」
「そうです。ロックベル夫妻は、今でもアメストリスの医者の間で語り継がれています。あの凄惨な内乱の最中、敵味方の区別なく患者を治療したと。並の人間にはとてもできないことです」
僧侶の暗い表情に気付き、マルコーは口をつぐんだ。
「あの、申し訳ありません。お弟子さんを・・・・・・、責めるようで」
「いえ、よいのです。高潔な志を持ち、己を救った医者夫婦を殺めたことは、あの者がずっと背負っていかねばならぬ罪。責められて当然です。それなのに、その娘があの者の手当てをしたとは」
「本当に、立派なお嬢さんです。スカーは最初、何が起こっているのか分からないようでした。それに、イシュヴァール系でありながら国軍に籍を置き、一生を賭ける覚悟でイシュヴァールへの意識を変えようとしているマイルズという少佐。二人の姿を前にしたあの時、スカーは復讐以外の道があることを確信したのだと思います。その後、私たちと研究書を解読するスカーは、新たな決意に燃えていました。口には出しませんが、兄が遺した研究の完成に全てを賭しているのが伝わってくるのです。逆転の練成陣を発見して、同胞に協力を求める決意をした時、スカーは私に一緒に来るようにと言ってくれました。『イシュヴァールを否定したこの国をただ憎むのではなく、変えるために。そのためには、お前の力が必要だ』と言って」
医者はまるで自分のことのように、あの弟子の変化を生き生きと語った。この医者もまた自らの罪を背負い、なおも懸命に償いの道を探している。敵として出会ったにも関わらず、弟子のことを親身に思っているのが感じられた。
「そうですか。よく分かりました」
このまま話を終わらせることもできた。弟子が正道に戻るまでの過程を聞き、あとは他愛のない雑談をしながら弟子が戻ってくるのを待てば良い。しかし、マルコーの顔を見ると、悲しみが再び僧侶の心を覆った。やりきれない思いを隠しつつ、目の前のマルコーを直視する。ただれた皮膚、ゆがんだ口、つぶれた目・・・・・・。やはりこのことだけは、はっきりと聞いておかねばならないと思った。
「マルコーさん、一つお聞きしてもよろしいか」
「はい、何でしょうか」
「そのお顔は、あの者が・・・・・・」
「え?」
マルコーは一瞬間を置いてから、その言葉の意味を理解した。
「ああ、そうです。この顔はスカーが錬金術で破壊したものです。北に逃げる際、追手に気付かれないようにと」
僧侶が口を開こうとすると、マルコーはそれを止めるようにゆっくりと首を振り、かすかに微笑んだ。
「これでいいのです。私のような者には・・・・・・、分相応な顔だと思っています」
柔らかくも芯の通ったその声が、発した言葉よりもマルコーの気持ちを物語っていた。
――あの者が自分の顔を破壊した本当の理由を、この方は分かっている。
僧侶は言葉をのみ込んだ。もう、何も言うことはない。僧侶の心の動きが伝わってか、マルコーは静かに言葉を継いだ。
「それよりも・・・・・・、私にとっては、研究書の解読に協力することが償いになったのです。こんな私にもできることがあるのだと思えたのは、スカーのおかげです。だから、同胞に協力を求める旅の連れにスカーが私を選んでくれたときは本当に嬉しかった。殲滅戦に加担した人間にこんなことを言う資格はないとは思いますが、私はスカーに、ありがとうと言いたい・・・・・・」
マルコーはうつむき、穏やかな沈黙が流れる。あの弟子はマルコーを殺そうとし、利用するために生かした。それでもこの医者は時間をかけて弟子を信頼し、感謝の念をも抱いている。自らの罪に向き合う謙虚さ、その誠実な人間性に、僧侶は心を打たれた。敵として出会った者同士に生まれた、深く、固い絆。あの弟子もマルコーの人柄と思いを知ったからこそ、ホムンクルスに立ち向かう仲間として認め、こうして共に旅をしてきたのだ。そして、弟子が己の過ちを僧侶に打ち明けることができなかったのは、マルコーのことを心から信頼するようになったからなのだろう。
「・・・・・・いえ、礼を言わねばならぬのは、私の方です。本当に、ありがとうございます」
不思議そうに顔を上げるマルコーに微笑みかけながら、僧侶は弟子を思った。
――お前は、多くの人の善によって、生かされているのだな。
男は焦りをかかえたまま、小屋の前に立った。いくら師の言いつけとはいえ、自分がひどく馬鹿げたことをしているような気がしてくる。協力を得るために師のもとを訪れたのに、菓子をもらいに少年の家に戻るなんて、どう考えても間が抜けている。さっさと菓子を持って戻れば済むことと分かってはいても、羞恥心が邪魔をしてなかなか声をかけられない。
「あれ? おっちゃんどうしたの?」
何も知らない少年にいきなり声をかけられ、男はぎくっとした。
「坊さんちに行ったんじゃなかったのかよ? なんでこんなとこにいんの?」
「いや、それは、その・・・・・・」
「あー! 坊さんに追い返されたとか? ひっでーな、坊さん」
「違う!! そんなことではない!」
師のことを悪く言われたような気がして、男は反射的に否定した。子供相手に声を荒らげた自分がなんとも大人げない。
「冗談だってば。そんなに怒ることねーだろ」
「すまん、つい・・・・・・。実はその、お前の母親に菓子をもらいに来たのだ」
「はあ? お菓子?!」
少年はすっとんきょうな声を発し、紅い目をまん丸くして男を見ていたが、やがてくすくすと笑いだした。自分の顔がたちまち赤くなるのが分かる。
「わ、笑うな! ・・・・・・師父の言いつけだ」
「いや、ごめんごめん。コワモテのおっちゃんが『菓子』なんて言うからおかしくて。そーいや、今度作ったら分けてくれって坊さん言ってたよなあ。分かった。ちょっと待ってて」
少年は小屋の中へ消え、しばらくして母親と老人と共に現れた。
「はい、これです」
「すまない」
母親が差し出したかごには、きつね色の焼き菓子が6つ並んでいた。焼き上げたばかりで、甘く香ばしい香りが男の鼻をくすぐる。いや、己れは甘味は食べんから、師父とマルコーに3つずつか。そんなどうでもいいはずのことを思案している自分に気付き、慌てて気を引き締める。
「でも、変ですね。お菓子を気に入っていただけるのは嬉しいけど、何も大事なお話をするときにわざわざ取りに来てくださらなくても。あとでお届けしようと思ってたのにね」
母親は戸惑って少年と顔を見合わせた。
「そーだよ! おっちゃんがわざわざ会いに来たってのに、なんなんだよ坊さん!」
その時、目を細めていた老人が静かに口を開いた。
「何の話か知らんが、お前さんだけに取りに来させるとはの。いかにもあの人らしいわ。な、若いの」
その言葉を残すと、老人は踵を返して去っていった。男ははたと思い当たった。
――師父、己れは、また・・・・・・。
いつもそうだ。師に絶対的な信頼を寄せ、師の言葉に常に耳を傾けているはずなのに、肝心な時にその意図をくみ取れない。一途なあまりに多くを見落としてしまうこの未熟さに、我ながらあきれてしまう。
もと来た道を小走りでたどる男の口元から、自嘲にも似た苦笑がこぼれた。
「あ、あの・・・・・・」
マルコーは視線を泳がせた。こんな大事な話をする前に弟子にわざわざ菓子を取りに行かせたのだから、よほどの奇人だと思われたに違いない。
「錬金術のことをお話しするといっても、一体どこから・・・・・・。それよりも、早く研究書のことを・・・・・・。でも、スカーがいないと詳しい話ができませんし・・・・・・」
どうやら、思った以上に動揺させてしまったらしい。僧侶は姿勢を正すと、マルコーを落ち着かせようと柔和な笑みを浮かべた。
「これはこれは、とんだご無礼をいたしましたことをどうかお許しください。実は、あなたにお聞きしたいのも錬金術のことではないのです」
「え?」
状況が全くのみ込めずに目をしばたかせる医者に、僧侶はゆっくりと向き直った。先ほどのひょうひょうとした雰囲気は影をひそめ、温厚な、しかし威厳と高い徳を備えたイシュヴァールの高僧の姿がそこにはあった。
「お聞きしたいのは、我が弟子のことです」
「スカーのこと?」
「はい。あなたがあの者と出会い、行動を共にし、私を訪ねて来られたいきさつをお聞かせください。私は、あなたの目から見たあの者の姿が知りたいのです」
「それで、スカーにお菓子を?」
僧侶はその問いには答えず、マルコーを見据えたまま話を続けた。温かいまなざしだが、その紅き目は透き通り、全てを見透かすような鋭さがある。
「あなたのことは弟子から聞きました。あなたが、あの内乱でどのようなことに従事していたかも」
マルコーはびくりと身体を動かし、僧侶から目をそらしたが、やがて、あえぐように話し始めた。
「私は・・・・・・、軍医として、また国家錬金術師として、あの内乱に加担しました。賢者の石の製造など、軍内部の最高機密を知ってしまった私は、内乱後に国家錬金術師の資格を捨てて逃亡。名前を変え、東部で町医者をしていたのですが、結局ホムンクルスに見つかり、セントラルの地下に監禁されたのです。脱走や自殺を図れば、医者をしていた町をまるごと破壊すると脅されました。どんなことがあっても、あの町の人たちを巻き込むわけにはいきません。奴らに協力するしか手がなかった。ですが、協力すればこの国全体を犠牲にするような大惨事に加担することになる」
「そこに、あの者が現れたのですね?」
「はい。私も『傷の男』の話は以前から聞いていました。国家錬金術師を標的にする連続殺人犯がセントラルにいると。だからこそ、スカーが私の前に現れたときは、願ってもない幸運だと思った。これでやっと、奴らから逃れることができる。幽閉されていることを話すと、逃がすからホムンクルスの陰謀を世に暴けと言われました。町を丸ごと人質に取られているのですからそれはできません。ああ、事情を話したときのスカーの答えが、いまだに頭から離れない・・・・・・」
「あの者は、何と」
「『民族をひとつ潰された我らが、そんな話に同情すると思っているのか』と・・・・・・」
僧侶は言葉を失った。罪もない人々を巻き込みたくないと苦悩する医者に対して、このような言葉しか言えなかった弟子。この言葉を放ってしまった弟子の気持ちに思いを馳せる。あの弟子の心に巣くう、深い恨みと、傷に・・・・・・。
――お前は怒りと憎しみに我を失って、堕ちてしまっていたのか。人の痛みが、分からぬほどに。
「いえ、当然の言葉だと思いました。私が愚かだったのです。数えきれない人の命を使って賢者の石をつくっておきながら、一つの民族の殲滅に与しておきながら、その生き残りであるスカーに対して、あたかも自分が被害者であるような顔をして・・・・・・。しかし、とにかくあの頃は自分の存在そのものが罪深く思え、生きるのが苦痛だった。死んでしまいたかった・・・・・・」
「しかし、あの者はあなたを生かした」
僧侶がそう言うと、マルコーは苦しそうにうなずいた。
「そうです。スカーは私を殺さなかった。殺してくれと懇願すると、スカーは紅い目をはっと見開きました。あの時はこちらも必死で気づきませんでしたが、今思えば、あの瞬間にスカーの中の感情が呼び起こされたのかも知れません。スカーにしてみても、殺そうとする前に相手から殺せと言われたのは初めてだったのでしょうから。しかし、私が内乱に加担したと言うと、あの紅い目を見る見るうちに怒りと憎しみが満たしていきました。本当のことを言うと、私は内心しめたと思った。これで、確実に、生きる苦しみから解放されると・・・・・・」
「生きる、苦しみ・・・・・・」
「スカーが私を生かしたのは、内乱の真相と、兄の研究の真意を知るためでした。私は、自らの罪を償うことなど決してできないと思っています。ですが、ほんの少しでも償いになることがあるとすれば、どんなことでもしたい。最後には殺されたとしても、構わないと思いました。ですが、行動を共にするうちに、スカーが私を殺すことはないと確信が持てるようになったのです。スカーの中に、変化が生まれていました」
「変化?」
その言葉が、一筋の光となって僧侶の心を照らす。垂れ込めていた暗雲が、ゆっくりと散っていくように思われた。
「はい。スカーは当初、我々国家錬金術師に対する復讐のためだけに生きていたのでしょう。しかし、ホムンクルスの存在を知り、復讐心よりも真実を知りたいという気持ちが強くなったのだと思うんです。そして、ロックベルのお嬢さんに出会い・・・・・・」
「あの者の命を救い、あの者が命を奪った・・・・・・」
「そうです。ロックベル夫妻は、今でもアメストリスの医者の間で語り継がれています。あの凄惨な内乱の最中、敵味方の区別なく患者を治療したと。並の人間にはとてもできないことです」
僧侶の暗い表情に気付き、マルコーは口をつぐんだ。
「あの、申し訳ありません。お弟子さんを・・・・・・、責めるようで」
「いえ、よいのです。高潔な志を持ち、己を救った医者夫婦を殺めたことは、あの者がずっと背負っていかねばならぬ罪。責められて当然です。それなのに、その娘があの者の手当てをしたとは」
「本当に、立派なお嬢さんです。スカーは最初、何が起こっているのか分からないようでした。それに、イシュヴァール系でありながら国軍に籍を置き、一生を賭ける覚悟でイシュヴァールへの意識を変えようとしているマイルズという少佐。二人の姿を前にしたあの時、スカーは復讐以外の道があることを確信したのだと思います。その後、私たちと研究書を解読するスカーは、新たな決意に燃えていました。口には出しませんが、兄が遺した研究の完成に全てを賭しているのが伝わってくるのです。逆転の練成陣を発見して、同胞に協力を求める決意をした時、スカーは私に一緒に来るようにと言ってくれました。『イシュヴァールを否定したこの国をただ憎むのではなく、変えるために。そのためには、お前の力が必要だ』と言って」
医者はまるで自分のことのように、あの弟子の変化を生き生きと語った。この医者もまた自らの罪を背負い、なおも懸命に償いの道を探している。敵として出会ったにも関わらず、弟子のことを親身に思っているのが感じられた。
「そうですか。よく分かりました」
このまま話を終わらせることもできた。弟子が正道に戻るまでの過程を聞き、あとは他愛のない雑談をしながら弟子が戻ってくるのを待てば良い。しかし、マルコーの顔を見ると、悲しみが再び僧侶の心を覆った。やりきれない思いを隠しつつ、目の前のマルコーを直視する。ただれた皮膚、ゆがんだ口、つぶれた目・・・・・・。やはりこのことだけは、はっきりと聞いておかねばならないと思った。
「マルコーさん、一つお聞きしてもよろしいか」
「はい、何でしょうか」
「そのお顔は、あの者が・・・・・・」
「え?」
マルコーは一瞬間を置いてから、その言葉の意味を理解した。
「ああ、そうです。この顔はスカーが錬金術で破壊したものです。北に逃げる際、追手に気付かれないようにと」
僧侶が口を開こうとすると、マルコーはそれを止めるようにゆっくりと首を振り、かすかに微笑んだ。
「これでいいのです。私のような者には・・・・・・、分相応な顔だと思っています」
柔らかくも芯の通ったその声が、発した言葉よりもマルコーの気持ちを物語っていた。
――あの者が自分の顔を破壊した本当の理由を、この方は分かっている。
僧侶は言葉をのみ込んだ。もう、何も言うことはない。僧侶の心の動きが伝わってか、マルコーは静かに言葉を継いだ。
「それよりも・・・・・・、私にとっては、研究書の解読に協力することが償いになったのです。こんな私にもできることがあるのだと思えたのは、スカーのおかげです。だから、同胞に協力を求める旅の連れにスカーが私を選んでくれたときは本当に嬉しかった。殲滅戦に加担した人間にこんなことを言う資格はないとは思いますが、私はスカーに、ありがとうと言いたい・・・・・・」
マルコーはうつむき、穏やかな沈黙が流れる。あの弟子はマルコーを殺そうとし、利用するために生かした。それでもこの医者は時間をかけて弟子を信頼し、感謝の念をも抱いている。自らの罪に向き合う謙虚さ、その誠実な人間性に、僧侶は心を打たれた。敵として出会った者同士に生まれた、深く、固い絆。あの弟子もマルコーの人柄と思いを知ったからこそ、ホムンクルスに立ち向かう仲間として認め、こうして共に旅をしてきたのだ。そして、弟子が己の過ちを僧侶に打ち明けることができなかったのは、マルコーのことを心から信頼するようになったからなのだろう。
「・・・・・・いえ、礼を言わねばならぬのは、私の方です。本当に、ありがとうございます」
不思議そうに顔を上げるマルコーに微笑みかけながら、僧侶は弟子を思った。
――お前は、多くの人の善によって、生かされているのだな。
男は焦りをかかえたまま、小屋の前に立った。いくら師の言いつけとはいえ、自分がひどく馬鹿げたことをしているような気がしてくる。協力を得るために師のもとを訪れたのに、菓子をもらいに少年の家に戻るなんて、どう考えても間が抜けている。さっさと菓子を持って戻れば済むことと分かってはいても、羞恥心が邪魔をしてなかなか声をかけられない。
「あれ? おっちゃんどうしたの?」
何も知らない少年にいきなり声をかけられ、男はぎくっとした。
「坊さんちに行ったんじゃなかったのかよ? なんでこんなとこにいんの?」
「いや、それは、その・・・・・・」
「あー! 坊さんに追い返されたとか? ひっでーな、坊さん」
「違う!! そんなことではない!」
師のことを悪く言われたような気がして、男は反射的に否定した。子供相手に声を荒らげた自分がなんとも大人げない。
「冗談だってば。そんなに怒ることねーだろ」
「すまん、つい・・・・・・。実はその、お前の母親に菓子をもらいに来たのだ」
「はあ? お菓子?!」
少年はすっとんきょうな声を発し、紅い目をまん丸くして男を見ていたが、やがてくすくすと笑いだした。自分の顔がたちまち赤くなるのが分かる。
「わ、笑うな! ・・・・・・師父の言いつけだ」
「いや、ごめんごめん。コワモテのおっちゃんが『菓子』なんて言うからおかしくて。そーいや、今度作ったら分けてくれって坊さん言ってたよなあ。分かった。ちょっと待ってて」
少年は小屋の中へ消え、しばらくして母親と老人と共に現れた。
「はい、これです」
「すまない」
母親が差し出したかごには、きつね色の焼き菓子が6つ並んでいた。焼き上げたばかりで、甘く香ばしい香りが男の鼻をくすぐる。いや、己れは甘味は食べんから、師父とマルコーに3つずつか。そんなどうでもいいはずのことを思案している自分に気付き、慌てて気を引き締める。
「でも、変ですね。お菓子を気に入っていただけるのは嬉しいけど、何も大事なお話をするときにわざわざ取りに来てくださらなくても。あとでお届けしようと思ってたのにね」
母親は戸惑って少年と顔を見合わせた。
「そーだよ! おっちゃんがわざわざ会いに来たってのに、なんなんだよ坊さん!」
その時、目を細めていた老人が静かに口を開いた。
「何の話か知らんが、お前さんだけに取りに来させるとはの。いかにもあの人らしいわ。な、若いの」
その言葉を残すと、老人は踵を返して去っていった。男ははたと思い当たった。
――師父、己れは、また・・・・・・。
いつもそうだ。師に絶対的な信頼を寄せ、師の言葉に常に耳を傾けているはずなのに、肝心な時にその意図をくみ取れない。一途なあまりに多くを見落としてしまうこの未熟さに、我ながらあきれてしまう。
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プロフィール
HN:
Ms. Bad Girl
性別:
女性
職業:
会社員
自己紹介:
都内に住む20代。
プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。
好きなもの・こと
●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc
●読書(マンガ含む)
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫
●剣道
●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。
プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。
好きなもの・こと
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●読書(マンガ含む)
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
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