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『鋼の錬金術師』のスカーに惚れてしまったMs. Bad Girlによる、スカーファンブログ。初めてご覧になる方は、冒頭にあるのサイトの説明を読んでから閲覧をお願いします。無断転載禁止。               Since 2011/09/19
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はあ~、やっと7章書けたと思ったら日付が変わってますね。orz
 
かなりオリジナルな展開になっております。前編はそうでもありませんが、主にスカ坊で師父はあんまり出てきません。坊やのキャラが暴走気味ですが、よろしければぜひ。坊やのバックグラウンド捏造は次回に持ち越しました。
 
 
それでは、つづきからどうぞ~。

 少年の家族が暮らす小屋の内部はきわめて簡素なものの、伝統的なイシュヴァールの家庭を思わせた。中心には大きな敷物が敷いてあって、皆が輪になってあぐらをかいて座り、食事や団欒をするのだ。もっとも、ここの場合はぼろ布といった方が正確だが、どんな状況にあってもイシュヴァール人は自分たちの文化を力強く守っている。男とマルコーが訪ねてきたと知った住人たちが次から次へとやって来て、狭い小屋はまるで大宴会場のようににぎわっていた。
「それにしても、無事でよかったな、兄ちゃん」
「ほんとだよ。傷も治りきってないのに出て行くんだもんな」
「ったく、人が一生懸命世話してやってんのに勝手に動き回るしさ。『イシュヴァールの武僧は常に修練を・・・・・・』とか言っちゃって」
  少年が男のしかめっ面と低い声を真似、笑いがどっと巻き起こる。こうなるともう、黙り込むしかない。むっと口を固く結んだ男が肩に温かい感触を覚えて顔を上げると、微笑みを浮かべる師の顔が目に入った。
「すまない。遅くなったな」
  返事をしようと口を開いた瞬間、少年が師に駆け寄ってきた。
「坊さん、遅いじゃんか! 何やってたんだよ?」
「おお、すまんすまん。少し雑用をしていたら遅くなってしまった。それより、菓子をありがとう。お前の母さんが作る菓子は、やはり天下一品だな」
  師が頭をなでてやると、少年は自分のことを褒められたかのように誇らしげに笑い、母ちゃんに言ってくる!と駆けていった。その後ろ姿に目を細めながら、師がおもむろに口を開く。
「あの子を見ていると、幼い頃のお前を思い出す」
「己れを・・・・・・ですか」 
  恥ずかしさと戸惑いが混ざり合ったような感情が沸き起こり、男は目を伏せた。自分はあんなにがさつではなかったし、師に対してぞんざいな態度を取ったことは一度たりともない。常に弟子としての礼節を重んじ・・・・・・、などと考えていると、見透かしたように師が笑った。
「いやいや、態度ではない。お前は弟子なのだから、礼節を尊ぶのは当然のことだ。儂が言いたいのは、心だ」
「心・・・・・・」
「ああ。強く、実直で、同胞をいたわり、弱き者をいつくしむ心。――あの子は、入門した頃のお前と同じ目をしている」
   入門当初にどのような目をしていたかなど、自分ではよく分からない。ただただ一人前の武僧になることだけを考え、脇目もふらず修行に励んだ日々。自分では強くなったつもりでいても、師から見ればまだまだほんの子どもだったのだろう。当たり前のことを改めて感じ、男は一人、かすかな笑みを浮かべた。
 
「ああ、お坊さん! そんな所に立ってないで、こっちに来て下さいよ」
  住人たちに声をかけられ、師と共に再び団欒に加わる。師はこのスラムでも人望が厚く、皆から「お坊さん」と慕われているらしい。男が元武僧で「お坊さん」の弟子だということは、師から聞いて皆知っていた。
「ただの兄ちゃんじゃないとは思ったけど、武僧だったって聞いていろいろ納得したよ」
「若いわりに、言葉遣いとかに風格があるもんなぁ」
「でも、せっかくお坊さんが来たんだから、あれからもずっとここにいればよかったのに」
  同胞たちの温かさがかえって心苦しく感じられて、男は口をはさんだ。
「いや、己れがいては・・・・・・」
「全然迷惑なんかじゃないさ。同じイシュヴァール人じゃないか。なあ、みんな」
  男の言葉を予想していたかのように一人がそう言って辺りを見回すと、皆が口々にそうだそうだ、と言う。イシュヴァールの同胞の絆は常に強い。男が同胞の名を貶めた「傷の男」と知ってもなお、多くの住民がわずかな食べ物を持ち寄って歓迎の宴に参加してくれた。
「おっと、イシュヴァール人だけじゃない。そっちのマルコーさんも、俺たちの仲間だ。な、マルコーさん?」
「ああ、そう言ってもらえて嬉しいよ。ありがとうございます」
  マルコーはためらいがちに微笑んで、小さく頭を下げた。戒律が厳しい宗教を持つ民族というイメージと、アメストリスに最後まで抵抗したという記憶が相まってか、アメストリス人はイシュヴァール人を「排他的な民族」と思いがちである。だが、アメストリスに抵抗したのはあくまで主権が脅かされたからであって、イシュヴァール人は本来、決して「排他的」ではない。昔からシンなどの他国との交易も盛んで、内乱が始まる前までは様々な国の人々が市場を行き交っていたのを男も覚えている。「この世は全て、我らが神イシュヴァラの懐なり」という教えが示す通り、イシュヴァールの民は、自分たちへの誇りと異なる者に対する寛容さとを合わせ持っているのだ。前もって男から話を聞いていたマルコーだが、実際に住民と接するまでは不安でたまらなかったらしい。住民にはマルコーが内乱に加担したことを伏せてあるが、それでも無理もない、と男は思った。同じイシュヴァール人である男でさえ、再び迎え入れてもらうことはできないのではないかと思っていたのだから。

「母ちゃん、お代わりまだー?」
料理をせがんで狭い台所を動き回る少年を、火を使ってるんだから危ないでしょ、と母親が優しくたしなめる。ありきたりでささやかな、しかしかけがえのない親子の日常。武僧としての使命に燃えていた若き日の己が守りたかったのは、まさにこうした幸せだったのだ。男がそう思うと同時に、胸の中にしまいこんでいたはずの記憶がよみがえった。
 
――母上・・・・・・。修行時代、久しぶりに家に帰るといつも喜んで、己れが好きだからと言って手料理をたくさん作ってくれたな。入門して数年は年に一度ほどしか帰れないから、己れが帰ったときはいつも宴のようだった。修行中の身ゆえ己を律せねばと言うと、「家にいるときぐらい、好きな物を好きなだけお食べ」と言って。少し困ったのも事実だが、やはり、嬉しかった・・・・・・。
 
「あっちいっ!!」
 突然響き渡る叫び声に、現実に引き戻される。男が見ると、少年が苦しそうにうずくまっていた。近くの鍋に入っていた熱湯が何かの拍子でこぼれ、手にかかったらしい。
「大丈夫?! しっかりして!! 誰か、誰か水を!!」
「見せてください。私は医者です」
  うろたえる母親と少年のもとにマルコーが駆け寄った。男をはじめ周りの者に素早く的確な指示を与え、慣れた手つきで処置を施す。先ほどの気弱な男とは全く別の、医者としてのマルコーの姿だった。
  一連の応急処置が済み、少年は部屋の隅で休んでいた。幸い大事には至らなかったが、しばらく右手は使えないそうだ。利き腕が使えないのが不満なのか、少年は暗い表情でうつむいている。
「本当に、何とお礼を言えばいいんでしょう。マルコーさんがいらっしゃらなかったら、どうなっていたことか・・・・・・」
 母親はそう言いながら、繰り返し深々と頭を下げた。
「マルコーさん、すげえんだな。見かけによらず手早くてびっくりしたよ」
「何言ってんだお前は。『見かけによらず』は余計だろうが」
  住人の笑顔に囲まれたマルコーは、安堵したように小さく笑った。
「それより、ひどい怪我じゃなくてよかった。手が使えなくて不便だろうけど、じっとしていれば早く治るから・・・・・・」
  安心させようとマルコーが少年の頭に手を伸ばしたその時、紅い2つの目がにらみつけるようにマルコーを見上げた。
「んだよ!! 触るんじゃねぇ!」
 激しい怒鳴り声と共に、少年の左手がマルコーの手を払いのける。呆然とたたずむマルコーに向かって、噛みつくように少年が続ける。
「ちょっとケガを治したぐらいでいい気になりやがって! お前ら、オレたちに何したと思ってんだよ? アメストリス人!! イシュヴァールをめちゃくちゃにして、イシュヴァール人をいっぱい殺して! しかもお前、イシュヴァール人で実験してたんだって? イシュヴァール人を殺すための実験してたんだって?」
  少年の言葉を聞いた住人たちが一斉にざわめく。皆の視線が矢のように突き刺さり、マルコーは蒼白になって力なくその場に倒れ込んだ。目の前で起こったことがにわかには信じられなかった。
――まさかお前、己れが師父に話すのを聞いてからずっと・・・・・・。
  これまでの経緯を話すとき、男は少年に席を外させようとした。あの凄惨な戦いの記憶を呼び起こし、幼い少年が憎しみや悲しみにさいなまされることがないようにと思ったのだ。しかし、師はそれを止めた。マルコーの話をあえて聞かせることで、自らの過ちを悔い、イシュヴァール人との和解を望むアメストリス人もいることを分からせようとしたのだろう。それに、この少年なら理解できると、師は信じていたのかもしれない。少年は怒りや憎しみに囚われることなく、おとなしく話を聞いていた・・・・・・はずなのに。
―― ずっと、憎しみをため込んでいたのか。
「おっちゃんが坊さんに話してんの聞いたぞ!! アメストリス人のくせに、なんでお前がここにいるんだよ? なんでおっちゃんと一緒にいるんだよ?!」
「こら、やめなさい!」
 母親が必死で制止しても、少年の罵声は一向にやまない。荒れ狂う敵意の矛先を、今度は男に向ける。
「おっちゃん! おっちゃんもなんでこんなヤツと仲間になってんだ? ここに連れてくんなよ!! ここはイシュヴァール人のスラムだ!」
 恐れていたことが起こった、と直感的に思った。男に憎しみを叩きつけるその姿は、もはやあの少年ではなかった。憎しみに燃える目、悪魔のような表情、ほとばしる激情。男はそこに、あの日の己の姿を見た。
 
――「国家錬金術師・・・・・・。アメストリス人・・・・・・。貴様ら、貴様らに・・・・・・」己れはそう言って、あの医者夫婦を――。
   
「アメストリス人が憎かったんじゃないのかよ?! アメストリスに協力しやがって、おっちゃんは裏切り――」
「黙れ!!!!」
  大地を揺るがすような男の怒号に、少年は立ちすくんだ
「勝手なことを言うな! お前に何が分かる! マルコーの苦しみも覚悟も何も知らんくせに! 今すぐマルコーに詫びろ!!」
  頭に血が上っていくのが分かる。裏切り者と呼ばれたからではない。そんなことは、どうでもよかった。同胞の非難にさらされることなど、当の昔に覚悟していた。ただ、全てを賭けて研究書の解読に協力し、己の深き罪を償おうとしているマルコーが貶められるのは、どうしても堪えられなかった。その上、話を聞かせるという判断をした師の信頼が裏切られたことに、煮えくり返るような怒りを覚える。
「なんでだよ! 誰が謝るか!」
「詫びないというのか。己の非を認めず、己を救った者に暴言を吐くことしかできんのかお前は! 師父がお前を信じてあの場にいさせて下さったことが分らんのか! 同胞の信頼を裏切るようなバカ者は、イシュヴァールの民ではない!!」
  男の言葉に射抜かれたように少年の紅き目から怒りが消え、悲しみがにじみ出す。少年は男に背を向けると、何も言わずに小屋から飛び出していった。

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プロフィール
HN:
Ms. Bad Girl
性別:
女性
職業:
会社員
自己紹介:
都内に住む20代。

プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。

好きなもの・こと

●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc

●読書(マンガ含む) 
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫


●剣道

●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。

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