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『鋼の錬金術師』のスカーに惚れてしまったMs. Bad Girlによる、スカーファンブログ。初めてご覧になる方は、冒頭にあるのサイトの説明を読んでから閲覧をお願いします。無断転載禁止。               Since 2011/09/19
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お久しぶりです。Ms. Bad Girlです。

最近まったくブログタイムが取れず、気付いたら前回小説をアップしてから1年以上たっていました……orz すごく今さら感が漂いますが、ようやく『激情を越えて』の最終話が完成したのでよろしければ見てやってください。

『激情~』はこれで完結です。恐ろしく遅く不定期の更新にお付き合いくださった皆さま、本当に申し訳ございません&ありがとうございました!このブログ自体は細々とでも継続していきたいと思っていますので、これからもどうぞよろしくお願いします。m(_ _)m


それでは、つづきからどうぞ。


 悲しみや憎しみ、それに、己の罪という重荷が消えたわけではない。ただ、涙は男が引きずっていた影のようなものを洗い流していったようだ。男は半年前の師との再会を思い出した。5年の間離れ、生死すら分からなかった師が、何よりも先に己に掛けた言葉が胸によみがえる。 

 

――「お前も、よく生き延びた」 

 

開口一番に怒鳴られ、殴られても当然だった。それでも済まぬほどだ。それほどの罪を、男は犯していたのだから。それなのにこの師は、いつもと変わらぬ穏やかさをたたえていて――。 

――ああ、師父はずっと、あの時からずっと……、己れの生を肯定してくださっていたのだな。そうだ、いかに過酷な現実をも生き抜き、使命を全うすることこそ武僧の本懐。それが師父の教えだった。罪と憎しみにまみれた己れにさえ、師父は師として接してくださった。修行を積んでいたあの頃と変わらぬ、厳しさと、優しさをもって。だとすれば、師父が生きよとおっしゃるのは――。 

 

師の教えを噛みしめると同時に、己の罪に対して、これ以上過酷な罰はないと思った。どれほど大きな悲しみや苦しみを抱えても、消えぬ罪と共に生きる。兄の研究を完成させることは、その一歩に過ぎないのだ。 

――この方は昔から、「生きること」に本当に厳しかったな……。 

そしてその厳しさは、師の優しさに他ならなかった。 
 
男は立ち上がって、暁に染まる東の空を見上げた。あの先には、神の地がある。男が生まれ、家族と過ごし、武僧を志して修行に励み、民を守るために戦い、そして……、失った故郷。遙かなるイシュヴァール。己に再びあの地を踏む資格があるのか、まだ確信が持てなかった。ただ、この作戦を必ず成功させ、同胞たちが故郷に戻るための突破口を開こう。胸に燃えるのは、その決意だけだ。 

「師父」 

 空を仰ぎ見る師に、そう呼びかける。昔とまったく変わらない、心からの敬愛の念を込めて。 

「ん?」 

「本当に、ありがとうございます」 

「ああ」 

  師は何も言わず、ただゆっくりと頷いた。男の思いの全てを、この師は受け止めてくれる。そして寄り添い、共に歩いてくれる。男は己の信ずる道を、ただひたすらに進めばいい。憎しみを抱えつつここまでたどり着いた己を見たら、兄は何と言うのだろうか。 

 

――兄者、兄者なら、「この国を救う」と言えるのだろうな。しかし、己れは言えないし、言わない。本当のことを言うと、今でもアメストリスが憎くて仕方がない。だからこそ、己れはこの国を変えたい。変えて、我らを認めさせるのだ。兄者の本来の意図とは違うかもしれんが……、それでいいか、兄者? 

 

 乾いた風が、東から吹いてくる。頬をなでるその風は優しかったあの兄の手のようで、男の向かう先を指し示しているような気がした。 

 

 
 
もう大丈夫だ、僧侶にはそう思えた。弟子は背負い込んでいた荷を降ろし、地にしっかりと足をつけて立ち上がったのだ。もう、僧侶が手を貸さずとも、この弟子は己の力で歩いていける。己の生と、真正面から向き合いながら。 

「強く、なったな」 

「……は?」 
 
弟子は紅き目を丸くし、不思議そうに僧侶を見つめた。 

「いや、何でもない。それより、夜が明けてしまったぞ。夜明けと共に発つのではなかったのか?」 

  はたと我に返り、心持ち急ぎ足で、弟子は少年の家への道をたどった。 

 

――お前に「理不尽を許してはならぬ。憎しみに堪えろ」と教えた儂は……、結局のところ、この国の理不尽に対して何もしようとしなかった。その儂を動かしたのは、他でもない、お前だ。お前は長い時間をかけて自分の進むべき道を見定め、師を動かすほどまでに成長したのだな……。 

 
 
弟子の背中は、半年前に別れたときとは別人のように、頼もしく、そして広かった。 

 

 金色の朝日がスラムを染める。身支度を済ませた弟子とマルコーを、少年と母親、老人、そして多くの住人が見送りに来た。 

「もう、行くのかい?」 

「もう少し、ゆっくりしていけばいいのに」 

「いや、先はまだ長い。これから東に向かい、同胞の協力を求めねばならん」 

 別れを惜しむのを拒むように、弟子は遥か東を見据えた。 

「皆さん、お世話になりました。本当に、ありがとうございます」 

 マルコーが丁寧に頭を下げる。その姿には、己の過去と向き合った男の、心からの誠意が表れていた。 

「じゃあ、そろそろ失礼しようか」 
 
マルコーに応じ、弟子がうなずく。その時、少年が弟子の元へ駆け寄ってきた。 

「おっちゃん、絶対また会おうな!」 
 
弟子はためらいながら少年を見下ろした。何を言うでもなく、ただ、己を見上げるつぶらな紅き目を見つめている。 

「約束だぜ?」 
 
少年が不安げに、ロングコートの裾を握りしめる。弟子は答えを考えあぐねているようだった。 

「案ずるな。イシュヴァールの武僧はそうたやすく死んだりはせん」 
 
僧侶は笑みを浮かべ、少年の頭をなでてやった。安心しきったような笑顔が、日の光を浴びて輝く。 

「オレ、待ってるからな! またいつでも来いよ!」 

「師父……」 
 
弟子は困惑の色を浮かべたが、やがて力強く頷き、少年に向かってかすかに笑って見せた。
 住人たちに一礼し、弟子が静かに歩き出す。決して平坦な道のりではないだろう。しかし、この弟子ならいかに厳しい旅でも必ず成し遂げられると僧侶は思った。この旅はもう、孤独な旅ではないのだから。その姿が地平線の彼方に消えるまで、僧侶は弟子の背をじっと見守っていた。
 

 

――いかに償おうとも、許されることはないかもしれぬ。最期に待ち受けているのは、罪人としての死かもしれぬ。しかし、死をもって罪を償うことなど、決してできはしない。悲しみに張り裂けそうになろうとも、孤独にさいなまされようとも、罪の意識に押し潰されそうになろうとも、生きるのだ。激情を越え、修羅でも獣でもなく、その命が尽きる瞬間まで、一人の人間として生きよ。お前にとって、それこそが最大の償いとなるのだから。 

 

今は迷っていようとも、弟子はいつか真に生きる意志を持つようになるだろう。僧侶は固く、そう信じていた。 

 

――その時が来れば、お前は自身の名を……。 

 

 

 

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プロフィール
HN:
Ms. Bad Girl
性別:
女性
職業:
会社員
自己紹介:
都内に住む20代。

プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。

好きなもの・こと

●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc

●読書(マンガ含む) 
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫


●剣道

●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。

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