忍者ブログ
『鋼の錬金術師』のスカーに惚れてしまったMs. Bad Girlによる、スカーファンブログ。初めてご覧になる方は、冒頭にあるのサイトの説明を読んでから閲覧をお願いします。無断転載禁止。               Since 2011/09/19
[113]  [112]  [111]  [110]  [109]  [108]  [107]  [106]  [105]  [104]  [103
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

  こんばんは。 お久しぶり過ぎて忘れられてしまっていそうなMs. Bad Girl です;;
 間が空きまくって何だか分からなくなった感じですが、『激情を越えて』最終章その2です。途切れ途切れで本当に申し訳ございません。m(_ _)m 相変わらずシリアスで、おまけにイシュヴァラ教の儀式とか、かなり捏造を含んでいますので、それでもいいよという寛大な方のみお付き合いください。

 実はもうすぐブログ2周年だったりするんですが、最近ブログタイムがほとんど取れず・・・・・・。でも、スカーさんのことはやっぱり大好きだし、書きたいネタもまだまだあるので、ほそぼそとでも続けていければと思っています。とりあえず、次回はもうちょっと早くアップしたいです・・・・・・!!


 それでは、つづきからどうぞ。


「どうした」
 聞き馴染んだ声に振り向くと、師が穏やかなたたずまいで立っていた。夜風が冷たくそよぎ、褐色の縞が走る帯が静かに揺れる。
「師父」
 己の暗い闇や苦悩を悟らせまいと、男は平静を装った。不肖の弟子の願いを聞き入れ、力を貸すと約束した師を、これ以上煩わせたくなかった。かといって返す言葉も見当たらず、結局、ただただ黙り込むことしかできない。その時、師は思いがけぬ言葉を口にした。
「――」
「・・・・・・!!」
 その音を己の口から発することはもちろん、誰かの口から聞くことも、文字を目にすることも、もう永久にないと思っていた。古めかしく、しかし力強いその一語が、封印していた遥かな記憶を呼び覚ます。

――日が昇る半刻ほど前、若き武僧たちが僧院の聖堂に集う。神聖な儀式でのみ身に付ける真新しい法衣に身を包み、緊張した面持ちで、一歩一歩踏みしめながら、中央の祭壇に立つ師のもとへ歩み出る若き日の己。長く厳しい修行を終え、男はこの日、一人前の武僧となったのだ。
 祭壇の前でひざまずき、深く礼をして、師の唱える聖句に耳を傾ける。低く荘厳なその声は身体に染み渡るようで、修行の苛烈さ、己の小ささに対する焦り、これから背負っていくものへの漠然とした不安や恐れが、全て浄化されていくように感じた。聖句が終わると同時に顔を上げると、師の顔が映った。期待と信頼に溢れたまなざしで男の紅き目を見つめ、その「一語」を伝える。
「我らがイシュヴァラの御名におき、汝に此の名を授けん」
 師の声が聖堂に朗々と響き、静謐な空気が歓喜に色付く。いにしえの響きを持つその言葉は、一人前の証として、師が弟子に与える「聖なる名」だ。師の名から一文字取って与えられた名と共に、弟子たちは一人前の武僧としての「生」を生きていく。男は感動と使命感に心を震わせ、己の決意を述べた。
「授かりし名に恥じぬよう、全身全霊を懸け、武僧としての生を貫徹いたします!」――


 捨てたはずの己の名を耳にした弟子は、不意を突かれて紅き目を見開いた。やがて力なく頭を垂れ、暗い目を伏せて押し殺すような声で言う。
「師父、その名はすでに捨てました。今は名もなき男です。己れは、武僧としての使命を果たせず、神の意思に背き、師父の言葉を聞き入れず、罪を重ねました。そのような者が、神より賜り、師父に授けていただいた名を名乗るわけには参りませぬ」
「そうか・・・・・。だが、これは儂がお前に与えた名だ。それに、弟子を『傷』と呼ぶ師などどこにおる?」  
  僧侶の言葉にこもる温もりに戸惑い、弟子は顔を上げた。表情も声も平静を保っているが、その目には動揺がにじんでいた。
「しかし、師父は、己れにはもう名を持つ資格などないとお思いなのではないのですか。ゆえに、あの少年にも言わなかったのでは?」
「・・・・・・いや。これは、お前が持っていた名だからだ。お前の名を取り戻すことができるのは、お前をおいて、他にいない」
「取り戻す、などと・・・・・」
  僧侶の言葉に希望を見出したかに見えたのも束の間、己の名を拒むように、弟子は背を向けた。語りかける言葉に背き、このスラムを去って行った半年前のあの日のように。大切な兄の遺志を知り、新たな使命に燃える今も・・・・・、この弟子に巣喰う闇の深さは変わっていないのだ。

――このままでは、お前は。

 師弟の間を、一陣の風が吹き抜けていった。物音一つしない、静かな夜。その静けさは、弟子が兄の研究について打ち明けた殲滅戦前夜のあの夜に似ていた。あれから6年の歳月が過ぎ、僧侶も弟子もさまざまな苦難を生き抜いてきた。

――心に巣食う闇に、いつまでも支配されいてはならぬ。

「儂がこのスラムにお前を訪ねてきたとき、お前は何の裁きも受けずに生きている国家錬金術師が許せぬ、だから同胞のために復讐をすると言った。だが・・・・・・、お前が誰よりも許せなかったのは、自分自身なのだろう? 武僧としてイシュヴァールを守るために生きてきたにもかかわらず、何も守れず、守るべき者の命で生き永らえてしまった己が、憎くてたまらなかったのだろう? もう、いいのだ。己の生を憎むことはない」
 その言葉を耳にした瞬間、弟子は火の付いたような紅き目を僧侶に向けた。沸き起こるままに、激情がほとばしる。
「師父! なぜお許しになるのです!! 己の使命を全うできなかったばかりか、守るべき者の命で生き延び、その命を使って復讐に手を染めた己れを!!!!」
 言い終わると同時に我に返り、弟子はうつむいた。激情はこの弟子の胸の中でくすぶり続け、徐々にその身を焼いていく。弟子自身も気付かぬほど、静かに・・・・・・。

――傷つき、苦しんでいるのは、お前なのだ。お前は何も悪くない。これ以上、自分を責めることはない。

 そう言って弟子を罪の意識から解放してやることができたらどんなにいいだろうと僧侶は思った。だが、もはやそれは許されないことだった。人として決して許されない罪を、この弟子は犯してしまったのだから。悲しみ、憤り、悔しさ、無力感、愛おしさ。数えきれないほどの感情がないまぜになって溢れ出しそうになる。僧侶は全てをのみ込むと、厳しい口調で弟子に語りかけた。
「勘違いするな。復讐という罪を許しているのではない」
「ならば、なぜ・・・・・・」
 戸惑って見上げる弟子の紅き目を見据え、淡々と、言葉を継ぐ。
「許されざる罪を犯した者は、生きていてはならんというのか。その命を持ってしか、罪を償えぬというのか。それでは、罪を背負いながら生き、己の全てを賭して償おうとしているマルコーさんはどうなる?」
「マルコーは・・・・・・、己れとは違います。復讐の名の下に多くの命を奪い、同胞の名を貶めた己れが、のうのうと生きているわけにはいかぬのです」
「まだ分からぬのか。その偏狭な考えが、お前を復讐という狂気に駆り立てたのではないのか」
「おっしゃる通りかもしれません。しかし、だからこそ己れは、己の全てを捨て、兄から託された使命を果たすのです。それさえ果たせば、己れなどは、もう・・・・・・」
「いや、違う。死して償える罪などない」
「しかし・・・・・」
 僧侶が語りかけるごとに、弟子の態度は一層頑なになった。僧侶の真意に、この弟子は気付いている。気付きながらも――、それに向き合うことができないのだ。
「お前は、恐れているのだな」
「何を恐れているというのですか、師父! 確かに己れは、数えきれぬほどの罪を犯しました。その重さは十分承知のこと。しかし、己れは何も恐れてはおりません。罪の重さも、罰も、これからの戦いも!」
 見透かされた心を覆い隠すように、弟子は抗った。
「いや・・・・・・、お前は恐れている。己の生を」
 答えはなかった。しかし、弟子の紅き目を見れば、その心の内は手に取るように分かる。
「罪深き己が生き永らえるわけにはいかないとお前は言うが、結局のところ、それは己の罪から、己の生から、目を背け、逃げているだけだ」
  僧侶の言葉を聞いた弟子は、ただただその場にたたずんでいた。
「いいか、よく聞け。お前が一人あの戦を生き延びたことは、決して、罪などではない。お前が武僧という生き方に、その使命に、どれほど全身全霊を捧げて生きてきたかは、お前の師として、儂が誰よりもよく知っている。だから、もう、いいのだ」


 言葉を重ねられれば重ねられるほど、男の闇は深まっていった。己の生を是とすることなど、男にはできるはずもなかった。それを自らに禁じてここまできたというのに。最期の使命を貫徹しさえすれば、全てが終わるというのに。なのに、生きよという師の言葉に、その優しさに、身を裂かれる思いがする。
「なぜ! なぜなのです!! いいわけがない! 己れのような人間が生きていていいわけがないではありませんか!!!! 己れは死にぞこなったのです。己れは、己れはあの時、死ぬべきだった!!」
 もはや師の顔を見ることもできない。苦悶の末に溢れ出す己への憎しみを、地面にたたきつけるように、ただただ吐き出す。
「やめよ。死に救いを求めてはならぬ」
 師は寸分も動じなかった。訴えを受け流されているようで、師への疑念が男の口をついて出る。
「しかし、師父はご存じないのですか? 生きる苦しみを。守るべきものを全て失い、使命を果たせぬままたった一人で生きていかねばならぬ苦悶を! 死よりも残酷な生であっても、なぜ、なおも生きよとおっしゃるのですか!!」
「甘えるな!」
 男の痛みを切り捨てるように、師が憤然と言い放つ。男を見つめるその紅き目は、鋼のような厳しさを宿していた。 

拍手[1回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
[10/16 小ゆず]
[10/16 小ゆず]
[12/31 サヤ・オリノ]
[12/28 サヤ・オリノ]
[12/23 サヤ・オリノ]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
Ms. Bad Girl
性別:
女性
職業:
会社員
自己紹介:
都内に住む20代。

プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。

好きなもの・こと

●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc

●読書(マンガ含む) 
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫


●剣道

●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。

バーコード
ブログ内検索
P R
カウンター
カウンター
カウンター
忍者ブログ [PR]