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『鋼の錬金術師』のスカーに惚れてしまったMs. Bad Girlによる、スカーファンブログ。初めてご覧になる方は、冒頭にあるのサイトの説明を読んでから閲覧をお願いします。無断転載禁止。               Since 2011/09/19
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こんばんは! おおおお、お久しぶりです;
 
めっちゃくちゃ間が空いてしまいましたが、やっと『激情を越えて』の最終章その1が完成しました!
 
本当は「前編・中編・後編」とすべきですが、管理人がこの後どれくらいの分量をどれくらいのスピードで書けるか不明のため、まとまって書けた分から番号を付けてアップすることにしました。毎度のことですが、煩雑で本当に申し訳ございません。m(_ _)m

カテゴリー欄に「激情を越えて」を新設したので、これまでの話もそこから逆上って読んでいただければ幸いです。
 
今回は弟子のみで師父不在です。シリアスでかなり暗いのでご注意ください。
 
それでは、つづきからどうぞ~。

Ⅷ.激情を越えて
 
 
 照りつける日の光。吹きすさぶ熱風。視界を遮るものは何もなく、ただ、岩と砂ばかりが見わたす限り広がっている。己れは白くゆったりとした衣を身にまとい、その上に縞模様の走る褐色の帯を締めている。
――ここは・・・・・・、イシュヴァールなのか・・・・・・?
 独特の大地の匂いに導かれるように歩みを進めると、焼けるような光の中に、白い壁が浮かび上がる。
――あれは・・・・・・、己れの家・・・・・・。
 その瞬間、凄まじい爆音と共に火柱が立ち昇り、行く手をはばむ。遠くから、己れを呼ぶ声が聞こえる。
――父上! 母上!今、お側に!
 その近くで手を振っているのは、眼鏡をかけた・・・・・・。
――兄者! 兄者!! 
 力の限り走る。この地を守る武僧として、我が家族の命は何としてもこの手で守らねば。
「ご無事でしたか!」
「ああ、大事ない。よく、来てくれた」
 父上が己れを頼もしそうに見やる。己れがついているからには、誰一人死なせはしない。その時、肩をぐっと強い力が引いた。振り返ると、兄者が真剣なまなざしで見つめている。
「お前は、これを持って逃げろ!」
  そう言って突き出した右手には、一冊の本が握られていた。古ぼけた表紙、年季の入ったページの一枚一枚。生死を分ける時だというのに、その本は異様なほど細部にわたって己れの脳裏に刻み込まれた。
「何だこれは?」
「私の研究書だ」
「そんなもの、兄者が自分で持って――」
  動揺する己れに有無を言わせず、兄者は己れの懐に本を押し込んだ。
「おい! ちょっと待て――」
「お前は、これを持って生きろ!! 生きて、イシュヴァールを、この国を救ってくれ!」
――この国を、我らを虐げたアメストリスを救う? 何を言っているのだ、兄者!!
 その時だ。遥か頭上から、不気味な気配がした。
「貴様、何者だ!」
「この地区の殲滅を担当する、国家錬金術師です」
 この修羅の中、芝居でも見るように、声の主はさも愉快そうに笑った。両腕を横にぴんと伸ばしたかと思うと、両の手のひらを、胸の前で合わせてみせた。
――貴様などに、我が家族を奪わせはしない!
 己れが踏み出した瞬間、辺りを紅蓮の炎が包んでいく。
「伏せろ!」
 鬼気迫る声。目もくらむほどの光。最後に目に映るのは、遠ざかっていくあの背中・・・・・・。
――兄者! 兄者!! 兄者!!!! ・・・・・・
 
 視界が真っ白になったかと思うと、己れは吹雪の中、列車の荷台に立っている。冷徹な目がにやりと笑う。青い目をして、黒髪を後ろで束ねた貴様は――。
「ゾルフ・J・キンブリー、紅蓮の錬金術師・・・・・・。己れを覚えているか」
  激情をくすぶらせる己れを嘲笑うかのように、奴は白い帽子のつばを上げ、こちらを見やった。月明りの下にあらわになった青白いその顔は、余裕の色さえ浮かべている。
「ええ、よく覚えていますよ。仕事をした範囲で目に入った人間の顔は忘れませんから。貴方、イシュヴァールのカンダ地区にいた・・・・・・。確か、ご家族とご一緒でしたね。そうそう、側に眼鏡を掛けた方がいましたっけ。あれは貴方のお兄様でしたか。左脇腹から大量の血を流し、大層な苦悶の末――」
 込み上げる憎悪と憤怒。相手の狙いが己れを挑発し、怒りに震える姿を見て興じることだと分かっていても、この激情を抑えることができない。両手を合わせる、たったそれだけの動作で、家族、同胞、故郷、全てを己れから奪った男。兄者が描いていた理想も、何年も掛けて積み上げてきた研究も、抱いていた夢も、全て、全て貴様が――。
  だが、どんなに拳を突き出そうと、蹴りを繰り出そうと、奴を捉えることはできない。かすめることもなく、ただ、空を切るのみだ。奴は己れの攻撃を難なくかわし、離れたところで薄笑いを浮かべている。
「おっと・・・・・・、5年ぶりの再会だというのに、随分とまた物騒じゃありませんか。しかし、私のことを覚えていて下さって嬉しいですよ。苦しみを受けた人間の憎しみとは、ここまで深く、激しいものなのですね。いや、まったく、芸術的な美しささえ感じる」
 そう言うと、奴は唐突に高笑いを始めた。耳をつんざくような笑い声が、神経を逆撫でする。
「貴様・・・・・・、何が言いたい?」
「おや、お分かりにならない? 貴方が手にかけた人間も、決して貴方のことを忘れないということです。どんなことをしても貴方の罪は消えない。彼らが、そして、貴方が生きている限りね」
 いつの間にか、奴は目の前に立っている。己れの紅き目を睨(ね)める蒼眼。えも言われぬ悪寒が全身を貫く。奴は己れの動揺を見透かすように満足の笑みをたたえ、白く細い指で額の傷をなぞっていく。氷のように冷たい指だった。
「そうそう、私があの日に貴方に付けたこの傷も消えることはありませんよ。皮肉ですね。復讐のために名を捨てた貴方は、私の付けた傷によって新たな名を与えられた。『傷の男』。貴方は命ある限り、『傷の男』なのです。そう、永遠に」
「き・・・・・・、さ、ま・・・・・・」
  長きにわたって憎み続けた仇が目の前にいる。それなのに、己れの体は金縛りにあったかのようにぴくりとも動かない。奴は額が付くほど顔を近付け、耳元でささやいた。
「貴方は錬金術で何人もの人間を殺した。貴方と私は似た者同士ですよ」
  その言葉にはっとし、力を込めて奴を押し退ける。
「違う!! 貴様は自身のために人を殺す!」
「それは、そうですよ。でも、それは貴方も同じでしょう?」
「何を言う! 己れは殺された同胞の無念を思って・・・・・・」
「違いますね。貴方の復讐は、結局のところ、貴方のため。私は自分の美学のために、貴方は自分の憎しみのために、人間の命を奪うのです。錬金術という、素晴らしい業を用いてね」
「貴様に何が分かる!! 兄は貴様に殺されたのだ!」
「おやおや・・・・・・。私のせいでお兄様が死んだと。貴方はとんでもない思い違いをしていますね。お兄様が死んだのは、貴方のせい。貴方が誰も守れず、その上腕を吹き飛ばされたから、お兄様は貴方に腕を・・・・・・」
 口が裂けんばかりの笑みを青白い顔にたたえ、奴が己れの右手を強くつかむ。信じられないほどの力だ。
「ほら、ご覧なさい。お兄様の手がこんなに血に染まっていますよ」
  目の前に突き出された己の右手には、べっとりと血のりが付いていた。背筋を戦慄が駆け抜けていく。
「や、やめろ。やめろ・・・・・・。やめろおぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!」
 
 
 あまりにも鮮烈で、生々しい夢だった。古びた小屋という、今実際に自分がいる環境の方が幻なのではないかという錯覚さえ覚える。我に返って辺りを見渡すと、マルコー、少年、少年の母が狭い小屋の空間を分け合うように寝ていた。その安らかな寝姿を見てようやく現実を取り戻すものの、激しい動悸は収まらない。真冬の夜にもかかわらず、褐色の額を大粒の汗がつたい落ちていく。
 夜明けにはまだ時間がある。かといって、このままでは再び眠りに就けそうにない。少年たちを起こさないよう、男は一人外へ出た。
 スラムの細い路地をひっそりと歩いていくと、やがて、空き地のような、少し開けた場所へ出た。精神を落ち着かせようと、目を閉じてじっと佇み、張り詰めた空気を感じる。しかし、男の思考は先ほどの悪夢に引き戻された。外気がひどく寒く感じられるのは、夜風のせいでも、いまだに流れ落ちている汗のせいでもない。
「兄者・・・・・・。なぜ、アメストリスとの共存を望む兄者が死に、憎しみの固まりである己れが生き永らえねばならなかった? この命に換えてでも、兄者を守りたかった。兄者、なぜ己れを生かした? なぜ、自分が生きようとしなかった!」
  決して届かぬ問いに答えるように、兄の声が心に響いた。夢ではない、あの日実際に兄が口にした言葉だった。
――「お前は、厳しい修練を積んだ立派な武僧だ。私より、お前の方が生き残る確率が高いだろ?」
「・・・・・・っっ! 己れは・・・・・・、何のために・・・・・・」
 男は己の右手を見つめた。これまでの間に、この手にどれだけの血を吸わせてしまったのか。それを考えると、心の底から恐ろしくなる。この手が本来の主のものであったなら、一滴の血も吸うことなく、清らかなままであっただろう。
――「人のため幸福のためと願っても、誰もそうは見てくれぬではないか!!」
 日に日に激しさを増す殲滅戦のただ中、兄の研究を報復に用いようとする者たちに対して憤ったのは、他でもない己。若き日の烈火のような憤りには、寸分の偽りもなかった。今、その真っ直ぐな炎は己へと向けられ、男の暗き心を焼く。
――「兄が、悲しむぞ」
 半年前、背を向けた己を引き止めるように師が掛けた言葉。あの兄が、自分の命を奪った者に対する復讐など望むはずがない。そんなことは、分かりきっていた。分かりきっていたはずだった。しかし、抑えられなかった。堪えられなかった。男は負けたのだ。己の憎しみに、激情に・・・・・・。
「兄者が命と引き換えに己れに託したこの手を、己れは憎しみと血で染めてしまった。この罪を拭い去ることはできない。兄者が生きて、己れが死んでいれば、こんなことには・・・・・・」

――しかし、良い死に場所を得た・・・・・・。武僧としての使命を果たせぬまま生かされたのは、この役割を全うするためだったのだな。この5年間、いっそ死んでしまおうと何度思ったことか。それでも、復讐に生き、己の罪に気付いた己れは、最期にわずかながらこの世の正の流れに加わることができる。兄者、今まですまなかった・・・・・・。もう、兄者と同じ場所には行けんな。だが、罪によって同胞の誇りを汚した者が、同胞の存在が認められた世でのうのうと生きているわけにはいかない。憎しみという名の膿には、居場所など必要ないのだ。

 兄を思って満天の星空を仰ぎ見ると、夜風が男の銀髪をそっとなでた。
「兄者、兄者が遺した逆転の錬成陣は、何があろうと必ず発動させる。しかし、この使命を果たしたら、もう・・・・・・、いいだろう?」

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プロフィール
HN:
Ms. Bad Girl
性別:
女性
職業:
会社員
自己紹介:
都内に住む20代。

プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。

好きなもの・こと

●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc

●読書(マンガ含む) 
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫


●剣道

●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。

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