忍者ブログ
『鋼の錬金術師』のスカーに惚れてしまったMs. Bad Girlによる、スカーファンブログ。初めてご覧になる方は、冒頭にあるのサイトの説明を読んでから閲覧をお願いします。無断転載禁止。               Since 2011/09/19
[67]  [66]  [65]  [64]  [63]  [62]  [61]  [60]  [59]  [58]  [57
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

おはようございます。GWなのをいいことに、朝っぱらからブログってます。

お待たせしました。『激情』の第5章です。話としてはあまり展開がなく、次のエピソードへのつなぎみたいな章です。スカ坊がメインで、弟子ちゃんは相変わらず辛いですが、全体的にほのぼの系。これからは、坊やとマルコーさんが話のメインになっていく予定です。また、ちまちまと書き足していきます。

今回はアップだけですが、GW中にがっつりスカー語りをしたいなあ。でも、翻訳の課題やんなきゃなぁ・・・・・・。ぐるぐるぐる・・・・・・。

東京では桜の季節が終わったんで、テンプレをにゃんこにしました。だんだん「孤高の男」っぽくなくなってきていますが・・・・・・! でも、きっとスカーさんは「かわいい・・・・・・!!」って密かに喜んでくれるはずです。


それでは、つづきからどうぞ~。


「・・・・・・師父?」
 息が詰まりそうな沈黙に堪えかね、男は師に声をかけた。
「ああ、少し、思い出したことがあってな」
「と、いうと?」
「いや、気にするな。それより、お前に確固たる覚悟があるなら、お前の兄の研究について詳しく聞こう。共に旅をしてきたというその医師も交えて」
「では、お力を貸して下さるのですか」
「とにかく、詳しい話を聞きたい」
「ありがとうございます」
 師に向かって再度深々と頭を下げ、男は静かに立ち上がった。

 冬の冷たい太陽は、早くも傾いていた。様々な気持ちが入り乱れたまま、男はもと来た道を歩いていく。師の言葉に背き罪を重ねた己を、厳しく責めたうえで再び弟子として迎えた師。同胞の名を貶めるという罪に気付かされた男の罪悪感は強まる一方だが、もう、立ち止まりはしない。マルコーと共に再び師を訪ね、必ずや兄の遺志を遂げよう。男はそう心に決め、まっすぐと前を見た。
「おっちゃん」
 そう呼ばれて、男は足元に視線を落とした。
「坊さんって、優しいな」
「ああ」
 言葉の意味を考える前に同意していた。幼いころからいつもそばで自分を見守っていた師。わざわざ「優しい」とか「厳しい」とか考える必要もないほどに、修行時代の男にとってその存在は大きなものだった。それは分かっていたはずなのに、あの頃は己の弱さが不甲斐なく、できるはずもないのに全てを背負い込んで、肝心な時に見栄を張って、師の言うことに背いた。それでもやはり正しいのはいつも師で、自分は突き進んでは誤って、大切なものを傷付けて・・・・・・。半年前に再会したときに師のもとを去ったのも、結局は目を背けたかっただけだったのかもしれない。自分の罪と、師の断罪から。
――「人を傷付け、自らも傷を負わなければ、己の罪に気付かなかったというのか。この・・・・・・、愚か者が・・・・・・」
 先ほど発せられた師の言葉が、男の心の奥でうずく。一人で黙考していると、傍らの少年が口を開いた。
「坊さんがここにいついてから、オレ、しょっちゅう坊さんちに行ってるんだ。坊さん、いろんなこと教えてくれた。神さまのこととか、生きることとか、いろいろ。でも、おっちゃんの名前は教えてくれないんだよ!」
「教えてくれないって、お前、己れの名を師父に聞いたのか?」
「うん」

――「なあ坊さん、おっちゃんの名前ってなんていうんだよー? 坊さんはおっちゃんの師匠なんだろ? ほんとの名前知ってんだろー?」
――「さぁ・・・・・・。儂ももう年でな。忘れてしまったのだ」
――「えぇ~? ウソだー!! じっちゃより若いクセに!」

「とか言ってさ、何回聞いても絶対教えてくれないんだ」
「お前というやつは・・・・・・」
 師に対して思ったことを何でも言えてしまう少年の無邪気さにあきれると同時に、どこかうらやましさを感じる。穏やかで常に物事の本質を見極めているあの師は、この少年にも多くのことを伝えたのだろう。かつての自分を教え諭したように。しかし、自分は、あの日に全てを捨ててしまった・・・・・・。少年にも名前を言わないということは、やはり罪人である自分には名を持つ資格がないと師も思っているのだろう。当然のことだ。そう納得しているはずなのに、なぜか、落胆の色を隠せない。
「おっちゃん、どうしたの?」
「いや、何でもない」
「だけど、他のことは何でも教えてくれたよ。昔の・・・・・・、平和だったころのイシュヴァールのことも」
 そうか。この少年はかつてのイシュヴァールを知らんのだな。戦火に焼かれる前の神の地の姿を・・・・・・。そう思うと同時に暴れ出しそうになる憎しみに堪え、平常心を保つ。あの医者の娘に出会って、男は堪えることを学んだ。
――「堪えねばならんのだよ」
 半年前には、この言葉が理解できなかった。虐げられ、神の地を追われたというのに、これ以上何を堪えろというのか。この理不尽をただ堪え、同胞の苦しみを見過ごせと言われたと思い、男はほんの一瞬、師を疑った。だが、今ならこの言葉の真意が分かる。堪えねばならないのは理不尽ではなく、己のうちに沸き起こる憎しみだったのだと・・・・・・。
「おっちゃん」
「ん?」
「あのさ、坊さんはおっちゃんのこと、すごく大事に思ってるんだな」
「何だ、いきなり」
 唐突に言われた言葉がひどく照れくさくて、必要以上に憮然とした口調で答える。同時に、「大事に思ってるんだな」という言葉が、自分には不相応に思われた。
「・・・・・・オレ、おっちゃんがここを出てったあと、聞いたんだ。坊さんが一人でお祈りしてるの」

――「神よ、この世を創りたもうた偉大なる我らが神よ。あの者があなたの道に背いていることは承知しております。その罪は、あの者が一生背負っていかねばならぬもの。それでも・・・・・・、それでも、どうか我が弟子をお救いください。あの者が本来の己を取り戻すことができるよう、お導きを・・・・・・」

「師父が・・・・・・、そんなことを?」
 自分は怒りと憎しみにまみれ、復讐だけに生きてきた。二度と戻れぬ道と己に言い聞かせ、復讐のために全てを捨てた。武僧としての誇りも、名前も、感情も、信仰も、神も、そして、かけがえのない師も。大切なものであるからこそ、捨てねばならぬと思った。持っていてはならぬと思った。それなのに・・・・・・、師はそんな自分を見捨てることなく、神に祈っていたというのか。師の深い思いを知れば知るほど、己の小ささ、浅はかさが身にしみる。
「今坊さんとおっちゃんが話してるの聞いてて思ったんだけど、なんか、親子みたいだな」
「親子・・・・・・?」
「うん。厳しくて、でも、あったかくて。父ちゃんって、あんな感じなのかなって思って・・・・・・」
「そうか」
 その言葉を聞きながら、男はふと気付いた。この少年が父親の話をするところは聞いたことがないと。少年はイシュヴァール人である母親が自慢らしく、ことあるごとに母親の話をしていた。半年前に男をかくまったときも、イシュヴァール人だから助けたのだと言っていた。

――「オレも、母ちゃんがイシュヴァール人なんだ!」

 そう言って破顔一笑した少年の顔が、今でも脳裏に焼きついている。イシュヴァールの血はこの少年にもしっかりと受け継がれているのだな。そう思うと心が安らぐはずなのに、心の奥でえも言われぬ不安をかすかに覚えるのはなぜだろう。

「あ、お前!」
 突然、少年が駆け出した。男は見守るようにゆったりとした足どりで後を追い、しゃがみ込む少年のそばに立つ。
「ん?」
 男が見下ろすと、少年の足元で小さな毛玉がもぞもぞと動いた。
――かわいい・・・・・・!
 眼光鋭く、常に気を張っている男だが、実は小動物が好きで、中でも猫にはとことん弱い。時に鋭く、時に円らな二つの目。しなやかな身のこなし。甘えてくるかと思えば、見向きもしないという、あの気まぐれな態度。その存在の全てが、限りなく愛らしく、愛おしい。
「お前が世話をしているのか」
 男の心がわずかに和んだのを察したのか、少年は猫の頭をなでていた手を止めると、無邪気な笑みを浮かべてこちらを見上げた。
「うん、ノラなんだけどさ、1か月ぐらい前からエサをやってたら、なんかなついちゃって」
 確かに、猫の方もすっかり安心しきったように少年の足元で丸まっている。少年が与えたらしい残飯を平らげ、満足げに喉を鳴らす。
「オレたち、友達なんだぜ。な、アウレリアン」
 その名に、男は反応した。
「アウレリアン?」
「うん、アウレリアン。イシュヴァールの昔の言葉で、金のことなんだって。」
「なぜ、その名を?」
「ふっふっふー。昔の言葉を知ってるなんてすげーだろ。って、まぁ、オレっていうより、坊さんが付けたようなもんだけど」
「師父が?」
「そ。こいつの名前何がいいかなって考えてたら坊さんが来て、『アウレリアンはどうだ?』って。ちゃんと意味も教えてくれた。いきなり昔の言葉を言うから、ちょっとびっくりした。でも、かっこいいだろ」
「ああ」
「その時さ、坊さん、なんかすごく優しい顔だった。たんに優しいんじゃなくて、うんと・・・・・・、こう、あったかいっていうか・・・・・・」
「そうか」
 温かく、懐かしい感情が胸に押し寄せてくる。男の記憶は、はるか昔へと飛んだ。「アウレリアン」。それは、武僧に入門した幼き日に、男が拾ってきた黒猫に付けた名だった。動物を飼うことが固く禁じられている僧院で、隠れるようにアウレリアンの世話をしていたが、子供の隠し事などすぐに明らかになってしまうもの。ましてや、師の目などごまかせるはずもない。しかし、師は幼い弟子の心を察し、こっそりと見逃してくれた。「お前には、生へのまなざしがある。その優しさ、大切にするのだぞ」と言って。
――師父・・・・・・。
 男は静かに目を閉じた。
「おっちゃん、どうしたの?」
 いや、何でもないと言おうとして目を開けると、アウレリアンがつぶらな瞳で男を見つめていた。
「アウレリアン。いい名だな」
 傾いた陽がスラムを赤く染め、二人と一匹を優しく包んでいた。


 

拍手[9回]

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
[10/16 小ゆず]
[10/16 小ゆず]
[12/31 サヤ・オリノ]
[12/28 サヤ・オリノ]
[12/23 サヤ・オリノ]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
Ms. Bad Girl
性別:
女性
職業:
会社員
自己紹介:
都内に住む20代。

プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。

好きなもの・こと

●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc

●読書(マンガ含む) 
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫


●剣道

●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。

バーコード
ブログ内検索
P R
カウンター
カウンター
カウンター
忍者ブログ [PR]