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『鋼の錬金術師』のスカーに惚れてしまったMs. Bad Girlによる、スカーファンブログ。初めてご覧になる方は、冒頭にあるのサイトの説明を読んでから閲覧をお願いします。無断転載禁止。               Since 2011/09/19
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こんばんは!
 
やっと、やっと、やっっっと、6章の残りをアップできました。激しく間が空いたんで、読んでくださる方に話を忘れられているのではと心配でなりません;; 右の「スカー小説」っていうカテゴリから、前の話に戻って読んでいただいた方がいいかも。
 
でも、内容的には結構大事なシーンです! それでは、つづきからどうぞ~。

「師父、ただ今戻りました」
 戸口にかけてある布をめくり上げると、向かい合って話していた師とマルコーが同時にこちらを見た。初めて会ったとは思えないほどすっかり打ち解けた様子である。それにしても、初対面の相手に和やかに語りかけ、緊張をほぐしてしまうのは師の人徳に他ならない。それがイシュヴァール殲滅戦に加担した男であっても、この師は過去や憎しみに囚われずに常に相手の人間性を見極めることができるのだ。いまだに憎しみと葛藤している己には決してできないことだと、男は師への畏敬の念を新たにした。
「ああ、早かったな」
  大切に運んできた包みを小屋の真ん中に置いて開くと、甘い香りがふわりと広がる。
「おお、これだ」
「へえ、おいしそうだねぇ」
 焼きたての菓子を前にして屈託なく顔をほころばせる師を見ていると、男の心は自然と落ち着いた。先ほどまでの焦りや羞恥心が嘘のように消えていく。この師には他の僧にはない「柔らかさ」があるのだ。体術の腕はどんな武僧にも勝り、修練では神の怒りに触れたかと思うほど恐ろしかった。経典の解釈をめぐって、納得のいく答えを出すまで気の遠くなるほど延々と問答を繰り返されたこともある。それでも、心の奥には常に優しさを持ち、物事を柔軟に考えることができる人だった。本当は師のそういう面を敬愛してやまなかったのに、余裕がなくて素直になれず、その「柔らかさ」に反発してしまったあの頃の自分。いや、今でもそうだろうか・・・・・・。
「どうした? お前は食べんのか」
 男が菓子に一人手を付けずにたたずんでいるのに気付き、菓子を片手にした師がたずねた。
「いえ、己れは甘味は・・・・・・」とぎこちなく断る。
「え? せっかくあの子のお母さんが作ってくれたんだから、スカーも食べればいいじゃないか」
「そうだ。3人で2つずつだろう」
「いいえ、師父とマルコーで3つずつです」
 誘惑を絶ちきるように、男はあえてきっぱりと言った。
「・・・・・・まさかお前、『菓子など武僧には無駄な物』といまだに思っているのか?」
 甘味好きの師の手前、肯定するのがはばかられたが、まさしく図星である。修行中の武僧が甘味などを口にするものではないという思い込みに近い信念があり、僧院に入ってからは一切甘味を食べなかった。別にそういう戒律があるわけではないのだが、そのまま大人になったので、妙に抑制が効いていまだに食べられずにいる。
「まったく、お前ときたら・・・・・・。人の好意が無駄なわけがなかろう。さあ、3人で2つずつだ」
 あきれたように失笑しながら、師が手にしていた菓子を差し出す。まるで見知らぬ人間から食べ物をもらった野良猫のように、おずおずとそれを受け取って口に運ぶ男。その様子を見ていた師が突然声を立てて笑い出した。
「な、何も、お笑いになることはないでしょう!」
 菓子を味わう間もなく必死で抗議すると、師は笑いを堪えながら口を開いた。
「いや、すまんすまん。あまりにもお前があの頃のままなのでな」
 思いもよらない言葉に、男はあっけにとられた。一度は師に背き、神を捨て、修羅の道を歩み、罪を重ねた己をそのように・・・・・・。
「ああ、お前はやはり、あの頃のままだ。頑なで、一途で、激しい気性の持ち主。しかしそれでいて、優しさと誠実さを持ち続けている。だからこそお前は、いかに堕ちようとも、絶望の縁で己を見出すことができたのだ」
「師父・・・・・・?」
 言われていることを理解できぬまま師をぼんやりと見ていると、師は立ち上がり、こちらへ一歩ずつ近付いてきた。
「マルコーさんから、お前の話を聞いた。お前は様々な人と出会う中で己の誤りに気付き、理解することができたのだな。『許す』と『堪える』の違いを」
 「はい」と即座に答える自信はなかった。己の中には、まだ憎しみというどす黒い渦が渦巻いている。しかし、これだけは断言できた。
「復讐という行いが、いかに愚かであったか。そして、憎しみに任せて復讐に走った己の罪が、いかに重く、深きものであるか。それは、理解しているつもりでおります」
「そうか」
師は静かに目を閉じ、その言葉を噛みしめるようにしばし黙考すると、紅き目で男を見つめた。
「お前が自らの力で人の道に戻り、正の流れに加わろうというのなら、儂が師としてしてやれることは、何なりとしよう」
 心の奥まで日の光が届いたような気がした。これが、「希望」というものだろうか。全てを失ったあの日から、ずっと光に背を向け続けてきた。光の持つ輝きやぬくもり。忘れかけていた感覚が、一気によみがえる。
「それでは・・・・・・、それでは、お力を貸していただけるのですね?」
「ああ。今度こそ、詳しい話を聞かせてくれ」
「ありがとうございます」
 微笑みかける師を見ながら、男は感動に打ち震えた。二人を見ていたマルコーが、そっと男の背を叩いて言う。
「よかったね。私も本当に嬉しいよ。ありがとうございます」
 師に頭を下げたかと思うと、マルコーは思い出したように振り返った。
「そういえば、スカー。あれを見ていただいた方がいいんじゃないかな」
「ああ、そうだな」
 男は小さくうなずいて、ロングコートの両袖をたくし上げた。右腕には、あの時賞金稼ぎを倒した「破壊の練成陣」が、そして、左腕には――。
「お前、これは・・・・・・」
「我が兄の研究書から得た、再構築の練成陣です」
 師に向かって顔を上げ、男は低くよく通る声で言った。
「再構築・・・・・・。まさに、今のお前にふさわしい力だな」
 忌み嫌った錬金術を使って、破壊と殺戮を繰り返した男。自らもすさみ、心の闇はその暗さを増す一方だった。そんな己に兄の錬金術が新たに与えたのが、「再構築」という正の力だ。自分はその力を使うに値する人間なのか、師の言葉を聞いてもまだ確信が持てずにいる。だが、復讐心という狂気を脱した今、男が成すべきはただ一つ。
 ――兄者、見ていてくれ。己れは必ずや、「逆転の練成陣」を発動させてみせる。
 
 
 弟子の腕に刻まれた模様を見て、僧侶は目を見張った。半年前のあの日、僧侶を絶望に突き落とした「破壊の練成陣」。それと対になるように、逞しい左腕には白い刺青が刻み込まれている。「再構築の練成陣」。去っていく弟子の背中を見届けてからというもの、僧侶はまさにこの瞬間を待っていたのだ。弟子がつらく苦しい道のりの末に己の罪に気付き、人の道に戻るこの時を。兄の遺志を宿した弟子には、今までにない覇気がみなぎっている。必ず来ると信じていたこの時が訪れた今、僧侶がすべきはただ一つ。
――正の流れに加わるお前の背を、儂は押してやるだけでいい。
 
 弟子とマルコーが詳しい話を終えるころには、辺りはすっかり暗くなっていた。今夜は弟子とマルコーを歓迎して、あの少年の家でささやかな宴が催されるという。宴といっても、ここはスラム。豪華な食物が出されるわけでも、華やかな飾りつけがなされるわけでもないが、皆が集って旅人をねぎらい、同胞の絆を確かめ合うのだ。後から行くと言うと、弟子は一足先に少年の家へ戻っていった。
  兄の研究や同胞の存在を認めさせる計画を、弟子は冷静に、しかし溢れんばかりの熱意を持って語った。その紅き目には一点の曇りもなかったが、そこに異様なほどの輝きが宿っていることに僧侶は気付いていた。まっすぐ前を見つめているようでいて、実はその「先」を見通せていないような目だ。何かを目指すというより、何かから目を背けるために前を向いているのではないか。僧侶の胸をそんな不安がよぎり、先ほどのマルコーの話がおのずと浮かんだ。ホムンクルスに捕らえられ、自らの罪と葛藤するマルコーの絶望を・・・・・・。
――かつてマルコーさんを苦しめた闇は、今もお前の心の奥底に巣くっているのか。
 
 
  月が昇り始めた空の下、少年の家へと歩いていると、かたわらのマルコーが小さなため息をついた。
「いやあ、協力すると言ってもらえて、本当によかったね」
 心から安堵する表情からは、マルコーがこの問題を親身になって考えていることが読み取れる。それはもちろんありがたいことだが、ここまで安堵するのを見るとかすかな違和感を覚えてしまう。師に見捨てられたか、本当にこの計画に理解が得られるのかと不安でならなかったのは、マルコーではなく弟子である自分のはずだ。
「マルコー、お前、そんなに心配していたのか?」
  男の問いかけに、マルコーはばつが悪そうに目をそらした。
「ああ、ごめん。なんだか君のお師匠さんを疑ってたみたいに聞こえたかな。実は、もっといかめしい人なんじゃないかって思ってたんだよ。その・・・・・・、君の『武僧の師』だっていうし・・・・・・」
「何だ、そんなことを。穏やかな方だと言ったはずだ」
「いや、それはそうだけど、イシュヴァールの武僧と私たちでは『穏やか』の基準が違うかな、とかね。私の考え過ぎだったよ」
「何だそれは」
 ははは、とごまかすように苦笑するマルコーを見ながら、男は腑に落ちない心持ちがした。修練での恐ろしさや講釈の際の厳しさなどには極力触れないなど自分なりに気を遣ったのに、「『穏やか』の基準が違う」とはどういうことだ。マルコーとの信頼関係は十分に築いているつもりだが、妙なところで距離を感じてしまう。
――だが、それよりもマルコー、お前が恐れていたのは・・・・・・。
「お前がどんな師を想像していたかは知らんが、師父は憎しみに囚われて耳を閉ざすような方ではない。・・・・・・お前をそんな顔にした己れとは、違う」
  男の言葉を聞いたマルコーは、不意を突かれたようにこちらを見上げた。言葉を失ったかのように動かなかったその口が、やがて、一つ、また一つと言葉を紡ぐ。
「それは、もう、過ぎたことだよ。今は、後ろじゃなくて、前を見なきゃ」
「ああ。しかし己れは、決して許しは乞わん」
「うん・・・・・・」
  重苦しさを打ち払うようにして、マルコーはゆったりと紺碧の空を見上げた。
「君の言う通り、あの人は本当に、穏やかで、心の広い方だね。物事の本質を見通してらっしゃる」
「ああ。だが己れは、憎しみで何も見えなくなり、師父に背いた。『堪えねばならんのだよ』という言葉の意味を理解できずに」
 男が口を固くつぐみ、地面を見つめると、マルコーの手が背中に触れた。
「でも、君はその真意に気付いて、自分が変わった。君なら分かると信じていたからこそ、あの人はそんなふうに言ったんじゃないかな」
 その言葉には、どこか師に似た温もりがあった。
――そういえば、マルコーは師父と同じくらいの年なのだな。
 今さらながら、そんなことを思う。
「すまない。つまらん話をした。早く戻ろう」
 マルコーも師も、心から信頼を寄せてくれている。咎人である己には、もったいないぐらいに。何としてでも、この信頼に応えなければならない。込み上げてくる熱いものを胸に感じながら、男は足を早めた。

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プロフィール
HN:
Ms. Bad Girl
性別:
女性
職業:
会社員
自己紹介:
都内に住む20代。

プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。

好きなもの・こと

●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc

●読書(マンガ含む) 
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫


●剣道

●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。

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