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『鋼の錬金術師』のスカーに惚れてしまったMs. Bad Girlによる、スカーファンブログ。初めてご覧になる方は、冒頭にあるのサイトの説明を読んでから閲覧をお願いします。無断転載禁止。               Since 2011/09/19
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こんにちは。
 
一つ前の記事で書いたスカ坊短編を載せます。ちょっと暗めですが、よろしければつづきからどうぞ。

  迷路のように複雑に入り組んだスラムの路地を、少年が小走りですり抜けていく。まるで自分の家の中であるかのように、一瞬も迷うことなく、立ち止まることもない。たどり着いたのは、人気のない小屋。「おっちゃん」と声をかけて、するりと中に入った。
 
  乱雑に小物が置いてある小屋の中心に、大柄な男が一人、横たわっている。上半身の大部分と頭部に包帯を巻き、身動き一つせず、宙を見つめていた。少年の声を聞くと紅い目だけを少年に向け、やがて起き上がろうとした。
「あー、ダメダメ。まだ寝てろってば」
 うめき声を発しながら動きを止めた男を見て、少年があきれたように言う。
「情けない。これしきの傷で厄介になるとは」
「何言ってんだよ。全身傷だらけのクセして、情けないもクソもあるか」
 少年に反論することもできず憮然として押し黙った男の額に、少年が濡れた手拭いを無造作に載せる。手荒だなと思いながらも、ひんやりとした心地よい感覚が全身に染み渡っていくようで、男の心は少し穏やかになった。再び黙考に入ろうとして、枕元の少年が何か言いたげなのに気付く。
「どうした」
  寡黙な男が声をかけてきたことに驚いたらしく、少年ははっと顔を上げた。
「あのさ・・・・・・、聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「何だ」
 無愛想な口ぶりだが、迷惑と思っているわけではないらしい。少年は意を決して口を開いた。
「その、おっちゃんが目を覚ましたときにさ、じっちゃがおっちゃんのこと、『指名手配』って言ったじゃん? あれって、ほんと?」
 怒らせてしまったのではないかと気がかりで、少年は唾をゴクリと飲んだ。しかし、男は顔色一つ変えず、黙って小屋の天上を見ている。
「だったら、どうする」
「え・・・・・・」
「己れが『指名手配』なら、ここから追い出すか」
 男は声に感情を載せず、ただ淡々と言葉を並べた。まるで、他人のことを話しているかのように。話が誤った方向に進むのを食い止めようと、少年が慌てて首を振る。
「そんなわけねーだろ!」
「なら、なぜ聞く」
「それは・・・・・・」
 答えが見つからぬまま、少年は小屋の床を見つめた。すり切れたじゅうたんに、ほこり臭いにおい。この古びた空き家に男が運び込まれたのは、かれこれ2週間ほど前のことだ。生死の境をさまよっていた男はやがて意識を取り戻し、ゆっくりと回復してきている。筋骨逞しく、眼光鋭い男だが、このスラムに同胞が生き残っていると聞くと、かすかに笑みを浮かべた。少年には、その微笑みが忘れられなくて・・・・・・。
「信じられないから」
 うつむいたままつぶやくと、相手の感情がわずかに揺らいだ気配がした。
「おっちゃんが『指名手配』だなんて、信じられないから」
「信じたくないだけだろう」
 少年の最後の望みを切り捨てるように、男がつぶやいた。いや、少年の希望というより、己の中で目覚めそうな何かを押し殺すためか。
「じゃあ、おっちゃんは、悪い人?」
「そうだ」
「なんで、悪い人なの?」
 「やかましい」と言えば、少年は黙って出て行くだろう。しかし男は、なぜかそうする気になれなかった。
「・・・・・・人を、殺めている。もう、何人も」
 親身になって介抱してくれている少年にこんなことを話していいのかと、心のどこかがうずく。しかし少年は怯えることなく、枕元にとどまっていた。
「じっちゃから、聞いた。国家錬金術師を殺して、アメストリス人に『傷の男』って呼ばれてるって」
「知っているなら、もう、聞くことなどないだろう」
「ある」
 そう言うと、少年は一歩も譲らないといった表情でにらむように男を見つめた。額に刻まれた、大きな十字傷。だからアメストリス人は、この男のことを「傷の男」と呼ぶらしい。アメストリス人はこの傷を見て、恐ろしいと思うのだろうか。少年は、むしろその傷が痛々しいと思った。
「悪いって分かってんのに、なんで、やめないんだよ? なんで、人を・・・・・・」
「決めたことだ。己れには、やらねばならぬことがある」
  少年は、男が頑ななのを知っている。傷が全く治っていないのに、一刻でも早く起き上がって自力で動こうとするのだ。少しでもできることは必ず自分でし、少年が手を貸そうとしても決して受け付けない。それが自分の手を煩わせまいとする男の不器用な優しさであることも、少年は、知っている。子供たちのはじける笑い声や、小鳥のさえずりに耳を澄ませ、わずかに目元を和ませていたことも。そんな男が、何人もの人も命を奪った「悪い人」だなんて――。
「そんなのおかしいよ!! 悪いって分かってるのに、なんでそんなこと決めるんだよ! やらなきゃいけないことって何だよ!! おっちゃん、本当は嫌なんだろ? 人殺しなんて、したくないんだろ?」
 少年が畳みかけるように問いかけても、男の表情に変化が生まれることはない。言葉の波はその心に届いているのか、それとも、耳にすら入らないのか。
「どう思おうが、己れの勝手だ」
「なんだよ! そんな言い方しやがって!! オレは信じねーからな! おっちゃんが好きで人殺ししてるなんて、絶対信じねーからな!」
 そこまで言うと、少年は力が抜けたようにうなだれた。紅くつぶらな目から、一つ、また一つと銀色の雫が落ちる。
「だって、オレ、知ってんだ。おっちゃんは、『悪い人』じゃないって・・・・・・」
  沈黙で満たされた小屋に、少年のすすり泣きだけが響く。
――お前は、なぜ、そこまで・・・・・・。
  男はふーっと息を吐いた。
「己れなどのために、泣くな」
 薄汚れた袖で涙を拭い、少年がうるんだ目を男に向ける。
「ほら、やっぱり・・・・・・」
「ん?」
「やっぱり、おっちゃんって、優しいじゃん」
 男が紅い目を驚いたように見開くと、少年の顔にぱっと笑顔の花が咲いた。
「とにかく、ずっとここにいろよな。ここはみんな家族みてーなもんだし。ま、どっちにしろそのケガじゃ、当分どこにも行けねーだろーけど。じゃ、また来るからじっとしてろよ!」
 勝手にそう言い残して、少年がせわしなく小屋を飛び出す。長きにわたって忘れていた感情が沸き起こるのを必死で押え込みながら、男は沈黙へと戻っていった。
 
 
―完―
 
 
 
☆あとがき★
 
前に言ってた、スカーさんがスラムにかくまわれた直後のスカ坊。スカーさんを怖がらずに慕う坊やと、そんな坊やに少し心を動かされるスカーさんを書きたかったのに、なんだか暗い話になってしまった; スカーさんが一番堕ちてる時期なんで、明るくしようっていったって限界がありました。
 
原作の坊やの態度を見ると、生意気だけどスカーさんにすごくなついてる気がします。そして、スカーさんは優しいし、坊やのことが本当は好きなんだけど、自分が「復讐鬼」である以上、あえて深く関わらないようにしてるんでしょう。原作7巻で、スカーさんが坊やの目の前でチンピラを殺してしまうシーンがつらいです。坊やはおっちゃんの「傷の男」という一面を見てしまったんだな・・・・・・、と思って。
 
スカ坊は実は師父スカの次に好きな組み合わせなので、もっと色々書きたいです。今度は最終話後の、もっと幸せなスカ坊を書ければ・・・・・・。できれば師父も登場させてっ!!

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プロフィール
HN:
Ms. Bad Girl
性別:
女性
職業:
会社員
自己紹介:
都内に住む20代。

プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。

好きなもの・こと

●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc

●読書(マンガ含む) 
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫


●剣道

●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。

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