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『鋼の錬金術師』のスカーに惚れてしまったMs. Bad Girlによる、スカーファンブログ。初めてご覧になる方は、冒頭にあるのサイトの説明を読んでから閲覧をお願いします。無断転載禁止。               Since 2011/09/19
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7章後編その3。これが最後です。煩雑ですみません。

※2つ前の「『激情を越えて』 第7章「深き傷」 後編その1」からお読みください。

  弟子と少年が去った小屋には、不穏な気配が漂っていた。
「マルコーさん・・・・・・、リックの話は本当なのかい?」
「あんた、イシュヴァール人を使って人体実験してたのか?」
「俺たちの中にここまで入り込んどいて、それはねぇだろ? おい、なんか言ったらどうだ?」
「でも、リックはまだ小さいし、何かの勘違いじゃないの?」
 視線を落としたまま、一言も発することもなくただただ立ち尽くすマルコーに、住人たちが詰め寄る。マルコーの顔は蒼白で、額には冷や汗がにじんでいた。
「いいえ、あの子の言ったことは本当です。私は・・・・・・、あの内乱に、あの殺戮に、加担した人間です」
 その一言に、住人たちはどよめいた。息をのみ、口を覆う女。怒りに歯を食いしばる男。わけも分からずに怯え、母親の手を握る少女。よろめき、そばにいる者の腕にすがりつく老婆。蹂躙された者たちの仕種一つ一つが、マルコーの胸を深くえぐった。それでも、自らの使命を貫徹せねばならない。もう二度と、周りに流されて意志を曲げることだけはすまいと、心に決めたのだから。
「私のような者が、あなた方に受け入れられる資格などないということは、よく承知しております。ですが・・・・・・、いえ、だからこそ、私はどうしても自らの罪を償いたい。そのためにスカーと――」
マルコーが言い終わらぬうちに、若い男が人の輪を押し退けて現れ、感情をぶちまけた。
「へっ! 何が償いたいだ。人をさんざん殺しといて、よくもまぁぬけぬけとそんなことが言えるもんだ! 言っとくけどな、おやじとおふくろは内乱中にいきなりアメ兵に連れてかれて、それっきりどこ行ったか分かんねぇんだよ! お前、どこ行ったか言ってみろよ、え?」
「うちのせがれも、内乱で行方知れずになったよ」
「結婚を誓ったあの人も、アメストリス軍に連れて行かれたまま・・・・・・」
「姉と弟も、もう二度と帰って来ません。二人が何をしたっていうんですか?」
  何対もの紅い目がマルコーをにらみつけ、「返せ、愛する者を返せ」と訴える。その無言の力に押され、マルコーは一歩、また一歩と後ずさりをした。さらに追い打ちをかけるように、若者の怒声が降りかかる。
「どうだ? イシュヴァール人はみんな、家族の誰かをこうやってアメ人に奪われてんだよ! 償うってんなら、俺たちの家族を返してみやがれ!! そんなことできねぇだろ? ああ? てめぇみてぇな奴――」
 「やめろ」
  高く振り上げ、固めた拳を、大きな手が包み込んでいた。
「お坊さん・・・・・・」
  手を振り上げた格好のまま、若者は僧侶を見た。
「なんで止めるんですか・・・・・・。なんで、こんな奴のことをかばうんですか。こいつを連れてきたのが、自分の弟子だからですか?」
  抱いていた疑念を代弁され、住人たちは若者と僧侶に一斉に視線を注いだ。僧侶の手は柔らかに、しかししっかりと拳を包み、そこから力が抜けるのをただじっと待っている。
「お前は、どう思う」
「は?」
「己の弟子が可愛いがゆえに、数知れぬ民の命を奪った男を、何も咎めず、儂が仲間に引き入れていると。お前はそう思うのか」
僧侶の言葉を聞いた若者は、握っていた拳をゆるめ、すとんと肩を落とした。その目から憎しみの炎が消えるのを見届けると、僧侶はマルコーと住人を見やった。
「この方があの内乱でどのようなことに従事していたか、儂は知っている。我が弟子と、ご本人から聞いた。リックが言った通り、マルコーさんは我らが民を使った人体実験に関わり、さらに多くの民の命を奪った。それは、決して動かせぬ事実だ」
  にわかにざわめきが起こる。マルコーは青ざめた顔を僧侶に向けた。
「それに・・・・・・、皆も知ってのとおり、我が弟子は武僧としての信頼を裏切り、憎しみに流され、多くの国家錬金術師を殺めた。その中には、あの内乱にまったく関与していなかった者もいた。いや、関与していたとしても、激情に駆られて人の命を奪うことは、理不尽に他ならぬ」
  住人たちは頭を垂れ、僧侶の言葉に耳を傾けていた。同胞である弟子の罪は、できることなら不問に付したい。イシュヴァールを蹂躙した国家錬金術師に、復讐をして何が悪い。そんな無言の声が、僧侶には聞こえてきた。住人たちの無念の思いを払いのけるように、僧侶は大きな、しかし温情のこもった声で続けた。
「しかし、弟子は己の罪を深く悔い、世を変えるために動き出した。我らイシュヴァールの民の存在を、アメストリスに認めさせるために。そして、マルコーさんも自身が変わり、贖罪の道を探す中であの者に協力することを決めた。罪を犯した者が真摯に償いの術を求めるのなら、心を開き、共に歩むのが、傷付けられた者としての道理ではないか? それでも、アメストリス人が憎い、信頼できぬというなら、それもよかろう。我らがアメストリスから受けた傷はあまりに深く、我らが背負う苦しみはあまりに大きい。だが、それでも儂は、己の罪と向き合う二人の誠意と熱意に賭けたいと思うのだ」
  僧侶の言葉に光を見出す者。暗くうつむいたまま、重い足どりで小屋を後にする者。住人たちの行動はさまざまだった。結局小屋には半数ほどの住人が残り、穏やかな、しかし重い沈黙が辺りを包んだ。
 
「マルコー!」
  突然響いた声に、皆が一斉に振り向く。
「あのさ、ごめんな!!」
  マルコーはわけも分からずに、戸口の少年に目を留めた。そばに立っていた弟子に乱雑な言葉をいさめられると、駆け寄ってきていかにも慣れない様子で礼をした。
「ひどいこと言って、ごめんなさい。あと・・・・・・、手を治してくれて、ありがとうございました」
 あまりに唐突な出来事にめをしばたかせ、マルコーは少年の姿をぽかんと見ていた。少年が恐る恐る顔を上げる。
「許して・・・・・・、もらえませんか?」
  自分を凝視する紅き目を愛おしそうに見つめ、マルコーは柔らかな笑みを浮かべた。
「ううん。そんなことはないよ。それに、私からも、ありがとうを言わなきゃいけないね」
「え? なんで?」
「私の気持ちを、分かってくれて」
「ああ、うん、まあ・・・・・・」
 ちらりと弟子と視線を交わしたかと思うと、少年は照れくさそうに頭を掻き、わざとらしく話題を変えた。
「あ、あのさ、今日はもう夜だし、おっちゃんたち泊まってけよ」
「え? いいのかい?」
「いいに決まってんじゃん! な、母ちゃん」
「ええ、もちろん。ゆっくりしていらしてくださいね」
  急激に話が進んでいることに戸惑う弟子の肩に、僧侶はそっと触れた。
「明日の朝、発てば良い。休養も必要だぞ」
「ですが・・・・・・」
  僧侶は弟子を見据え、静かに首を振った。
「今日は本当に色々なことがあった。半年ぶりにお前に会い、兄の研究の話を聞いた。マルコーさんという心強い味方とも出会うことができた。さすがのお前も、儂に話をして疲れただろう。今宵はしっかり、休んでいけ」
 
――お前の深き傷が、少しでも癒えるように・・・・・・。
 
  少年たちの元へと向かう弟子を見守りながら、僧侶は心の中でそうつぶやいた。

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プロフィール
HN:
Ms. Bad Girl
性別:
女性
職業:
会社員
自己紹介:
都内に住む20代。

プロの翻訳家を目指し、バベル翻訳大学院で文芸・映像翻訳を専攻中。

好きなもの・こと

●『鋼の錬金術師』のスカー
●洋楽 THE BEATLES、 QUEEN、 VAN HALEN、 DEF LEPPARD ANGRA、 NICKELBACK、 AVALANCH(スペインのメタルバンド)etc

●読書(マンガ含む) 
本:Sherlock Holmes、浅田次郎、言語・翻訳関連の本
マンガ:『鋼の錬金術師』、『るろうに剣心』、『ぼのぼの』、手塚治虫


●剣道

●言葉・語学好き。洋楽の訳詞家・翻訳家志望。

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